「火星のタイムスリップ」フィリップ・K・ディック

 先日は「面白そうだ」とコメント書いてみたが、読了したらそれほどでもなかった(←失礼なヤツ)ただディックほど個人的趣向に偏りがありすぎる作家も少ないだろう。あとがきの川又千秋によると「火星のタイムスリップ大好き」だし...ちなみに自分の一番は「暗闇のスキャナー」これもかなりマニアック。普通は「アンドロイドは電気ひつじの夢をみるか」だよな...あ、「パーマー=エルドリッチの三つの聖痕」もすきです。「ユービック」もいいな。
 共通の認識を持つことのできない火星原住民と地球人。そして火星で産まれた地球人のなかには、すでに火星人となり、原住民達とコミュニケーションが可能な人間が出始めている。そこで知った火星の事実。原始的と思われていた火星原住民は地球人とは全く違う概念のもとに高度な文明を築いていた...という話に思えてならないのだが...

時間に対する特殊能力を持っている少年を使い、過去を改変しようというのだ。ところが、タイムスリップには、恐るべき欠陥が...
 本書のあらすじによると、このような話だそうです。このような展開は、本の最後の方にちょこっと出てくる。いかにもSF的な描写部分。全然本書の内容を的確には表していない。SFという文学分野は、この本の初版出版時1964年にはすでにSFという狭い枠組みをはるかに飛び越えていた。と言うといかにも大仰だが、そんなことではなく、このころディックは、普通文学と呼んでまったく差し支えない地点で表現活動をしていたのだ。
 もっともディック本人はこのころ、SFではない普通文学と呼ばれるジャンルの作品をいくつか残しているのだが...ディックはディックでしかあり得ないので、彼の作品をカテゴライズして評価するより「ディックの作品」の一言で済ませてしまった方がわかりやすい。
 例によって全然「火星のタイムスリップ」の感想になっていないのだが、そんな他人の書評を拒否してしまうパワー(負のパワーだけど)もディック作品の魅力なのである。もちろん万人にお勧めできる内容ではない。