「亡国のイージス」福井晴敏

 そのタイトルからして「大政翼賛小説?」とか、初版が出版された1999年ころ巷にはやっていた「架空戦記もの?」とか、今思うと「申し訳ないごめんなさい」平身低頭ものです。「川の流れに」「トゥエルブYO」の流れをくんだ内閣情報機関ダイスのシリーズ第三弾にしてソレまでの最高傑作(自分はまだ終戦のローレライを読んでいない)である。
 例によって主人公は40歳くらいの中年男。仕事一筋の海上自衛官で家庭を顧みないあまり、妻から三行半を突きつけられ途方に暮れる、しょぼくれ負け組中年予備軍である。現在ミニ・イージスシステムを搭載した護衛艦いそかぜ」の先任伍長であるから、しょぼくれ具合は前作の主人公ほどひどくはないが...この小説はそんな男、仙石が人生の「おとしまえ」をつけに行く話だ。誰がなんと言おうと、自分はそう受け止めた。理想もイデオロギーも政争も保身も関係なく、ただ我が身にわき起こる衝動のままに、目の前の事象に対決していく。それが彼のおとしまえだ。
 強制退艦させられた救命ボートから、単身泳いで(!!?)「いそかぜ」にもどり、怒濤の大活躍などアクションもめまぐるしいのだが、それよりも心理描写がすばらしく、敵味方双方の心情が涙なしでは読めない。自分はバス通勤中に読んでいたのだが、何度目頭が熱くなってしまったことか。
 前半は割と静かな展開で、アクションというより本格推理といった感じが強く、自分も作者の仕掛けた文章の罠にすっかり嵌められてしまった。詳しく書くとネタバレなのでやめますが、チョットだけ...綾辻行人の「十角館の殺人」を思い出してしまった(←バレてるって)確か来年映画化するのだったのだが、このシークエンスはどうやって映像化するのだろうか?いや、ソレよりも何よりも、この壮大な「おとしまえ」のストーリーをわずか2時間少々の映画にまとめようとすると、単なる「海洋アクション映画」になってしまいそうで非常に心配だ。とりあえず監督さんにがんばってもらうしかない。
 うってかわって後半はアクションアクションまたアクション。二転三転する状況に「小説なんだから最後は必ずハッピーエンドになるはずだ」とは思いつつも、こりゃもうだめだ、どうしょうもない、助からない〜という展開が延々続く。それ故読了時のカタルシスはものすごいモノがある。
 必読の一冊として強力におすすめする。福井晴敏作品はこれまで「月に繭、地には果実」以来何冊も読んできたのだが、本当にハズレのない人だなというのが正直な感想。この勢いで「終戦のローレライ」も読まなければ。図書館にはあるのだが、何せ話題の新刊。貸し出し予約をしても、実際に読めるのは半年先かもしれない。
オフィシャルサイト↓
http://aegis.goo.ne.jp/
そしてニュース↓
http://www.herald.co.jp/news/2004/11/24_1.shtml
 漫画化もされている話題作だったのですね。気がつきませんでした。週刊モーニングにて怒濤の第一話52ページ連載開始には並々ならぬ意気込みを感じますが、いきなり「総員退艦」するところから始まったようで、ちょっと先が心配。だって退艦するのは文庫版でいったらちょうど半分、上巻が終わったあたりだから...やはり新連載ということでストーリーにインパクトを与えなければいけないのだろう。実はマンガ版は読んだことがないので、偉そうなことは言いません。ごめんなさい。
 ところで、亡国のイージスには幻のマンガ版があることをご存じであろうか。数年前発刊されて数号で廃刊してしまったコミック雑誌「コミック バウンド」に連載されていたモノだ。創刊号だけ買っていたので知っていたのだが、もうすっかりなかったモノになってしまっている。しかしネットとはすごいものでちゃんと情報があるところにはあるものだ。
http://www.fukkan.com/list/comment.php3?no=14625
キングゲイナー』のキャラクターデザインおよびコミック版作画の中村嘉宏さんが書いているそうです。ふむ〜「キングゲイナー」「富野由悠季」「ターンエーガンダム」「月に繭...」「亡国のイージス」つながりか!!やっとナゾが説けた(←そうか?)
 え?映画では仙石が真田広之...いいのか?もっと最強伝説黒沢的なキャラクター(こればっか)を想像してしまったのだが。いっそのこと福本伸行で漫画化すればいい。大感動の嵐が吹き荒れるに違いない。ただし連載終了まで30年くらいかかりそうな気がするが...

亡国のイージス

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