「わが師はサタン」天藤真

こんな悲惨な状況にもかかわらず読書だけは続けている自分はすごいものがある。ほめてやりたい。もっとも通勤時間がかなりあるので、文庫本なしの生活ではとても我慢できない。
さて、初めて読んだ天藤真ではあるが、予備知識といえば「大誘拐」の作者だということだけ。映画は見たが原作は未読。映画がとてもおもしろかったので、きっと小説も面白かろうとかりてきたのだが...
まずはこの装丁をご覧ください。

ページをめくるといきなり黒ミサ。全裸で祭壇に縛り付けられる妙齢の教授婦人。オカルトにとりつかれた学生たちは、全裸の彼女を張型で今まさに強姦せんとしている。
...とてもこの能天気はイラストからは想像できない、とんでもない展開である。正直びっくりした。最近は綾辻行人ばかり読みふけっていたので、かなり新鮮味あふれるミステリーだった。ま、ショッキングなオープニングはともかく、それ以降は割りとよくある...いや、よくあるわけはないが、青春群像物語的はお話が続く。つまり学園にはびこる悪の権化である人物たちに制裁を加える正義のオカルト仕事人の学生グループなのだ。その理論ははなはだ幼稚ではあるが。この幼稚さを利用されてなぞの人物が仕掛けるわなの実行者として散々な目にあわされるのである。やがてこのグループのリーダーが真相にきずき、めでたく事件は解決するのだ。
が...ここで特に本文では語られてはいないが、明らかに作者がほのめかした余韻あるラストが非常に面白い。事件を解決に導いた頭脳明晰で女性の心(と体)をうまくつかむ技術を得たオカルトグループのリーダーが、長じてこの事件の犯人のようになってしまうぞということをほのめかしているのだ。因果は巡り、悪事は繰り返す。今日の正義が明日の悪魔となってしまうことは往々にしてよくあることだという教訓を読者に下しているのである。
まったく天藤真という作家は油断がならない...というわけで、お勧めの一冊隣、心の図書館未読リストに天藤真も入れておくことにしよう。