「山ん中の獅見朋成雄」舞城王太郎

舞城王太郎って、自分的にはすっかりライトノベル作家ではなくなっている。しかも賛否両論な作品が自分的に多すぎるので「大好き」と諸手を挙げて歓迎できないし、かといって「最低〜ゲロゲロ」なんてとても断言できない。それぞれの作品を各人が読んでもらって、それぞれについて感想を述べる程度しかできない存在じゃないか?
さて今回の作品も舞城王太郎的神話世界を構築した最高傑作などとオビには書かれているが、だいたいいつもの過剰宣伝なので、この辺はさらりと流すのがGOOD。たいしておもしろくもないんだろうなと思ってみると、おもしろくはないが、それなりにこういったのもあり何じゃないかと思える作品。
主人公獅見朋成雄は山の中で孤高の書道家「モヒ寛」(モヒカンと読む、なんという名前だ)に出会い、オリンピック強化選手に選ばれる栄光を蹴って、彼に弟子入りする。ま、書についてはほとんどなにも教えてもらえないのだが...そんな中、モヒ寛は何者かにおそわれ瀕死の重傷を負う。獅見朋成雄は何故か山の中に現れた謎の馬に導かれて、モヒ寛の窮地を救うのだが...その後も山には不思議なコトが続き、とうとう獅見朋成雄は山の中から異世界へ続く穴を発見する。ソレを通ってたどり着いた世界は一見こちらの世界と同じようなのだが、人肉食が普通に行われている世界だった。ただソレが猟奇な行動ということではなく、むしろ神聖な儀式。食に饗される人に最大の敬意を払い食す作法が確立されている世界であった。人盆...平たく言えば「女体盛り」なのだが、獅見朋成雄はその世界で人盆となる女性たちのお肌の手入れを温泉にて雲助よろしく(雲助というより神聖な儀式を支える下官といったところだな)やることになるのだが...
「人肉食」とか「女体盛り」とかアンモラルなコトがたくさん出てくるのだが、文体自体は至極淡々と進むので、あまりそのような感じはせず、むしろ神々しかったりもする。つまりこれが新しく構築した舞城王太郎の神話世界ということなのだろう。この前読んだ「世界は密室でできている」ほど青春小説具合が少なくて、ちょっと残念だが、それでもこういった奇妙な青春小説をどんどん書き続けていってもらいたいものだ。
考えてみれば一番最初に舞城王太郎を読んだのが「阿修羅ガール」で、わけのわからない作品だったから...ひょっとして舞城王太郎の作品をちゃんと著作年代順に読んでいたらもう少し舞城王太郎に対する評価が変わってきたのかもしれない。
相変わらず目が離せない作家であろうが、かといってすべての作品を「ブラボー」とはいい切れない。その辺の評価の定まりきらないところ、とらえどころのなさが、舞城王太郎の最大の魅力ではないかと?最近は考え始めている。食肉に関しても「井戸の中で子供」でもあったように、舞城王太郎の「ハンニバルトマス・ハリスへのリスペクトであろうと想像するのだが。

山ん中の獅見朋成雄

山ん中の獅見朋成雄