「荊の城」サラ・ウオーターズ

なんとも感想の書きにくい物語である。物語は200ページごとくらいに意外な方向へ二転三転して、読者を驚かすのだが、ソレを書いちゃネタバレだよってコトで、どんな切り口で感想書いたらいいかわからない。おもしろいことだけは確かなので、強くオススメする。
「スリの主人公と詐欺師が組んで、ある女性の持つ財産を奪い取ろう」という話なのだが、ソレはかなりおおざっぱって言うか、ほとんど前半三分の一くらいまでの展開で、その後に加速す物語のさわりすら表していない。しかし、それを上下巻の「下巻あらすじ」として紹介されているのだから、ネタバレせずに感想書くことの難しさが出ている。
でも挑戦してみよう。
スリのスウは泥棒一家の女の子。今日もお母さんの所にあたらしい泥棒ネタを持ち込んできた、通称「紳士」と呼ばれる男の話を元にして、結婚詐欺から財産奪取を目指す策略に、乗り気はしないままも同意して、仕事の準備に取りかかる。仕事のネタは「あるお城に住んでいるお嬢さんは、大金持ちの財産相続人なのだが、その相続条件として『結婚をしたら相続権を行使できる』というのだ。だから紳士が結婚相手としてこの城に乗り込み、まんまと結婚してその財産をもらってしまおうというモノだ。もちろん結婚後はその娘さんには『精神に異常をきたした』という策略をこうして病院に閉じこめてしまおう」というものだ。
スウに与えられた仕事は、このお嬢様の侍女としてこの城に潜り込み「紳士」と「お嬢様」の結婚を成功させるために強力するというモノなのだが....
ま、そんな簡単な話ではないわけだ。
世間と完全に隔離された城は、その城主を頂点とする完全なヒエラルキーの支配する場所。城主はその財産相続権を持っているお嬢様の伯父である。この伯父がまた奇妙な人物で、澁澤龍彦がそのまま現在も生き続けて、齢90をむかえんとする頃になるとこんな人間になるのではないかというような、怪人物。ソコでのお嬢様の仕事は、後で判明するのだが(当初はスウが文盲ということもあってわからなかった)伯父の蔵書コレクションを、来客の前で朗読するコトであった。コレクションの内容は、耽美本である。その当時では当然、禁書。
こんなややこしい話が一筋縄ではいくわけもなく、いったいどういうふうに結末にもっていくのかと?非常に興味が出てくるところではあるが、まあ、それなりに「こうするしかないよな」といった着地点へめでたく(多分ハッピーエンド)たどり着いているのではないかなあといったエンディングを迎える。
...やっぱりうまく感想をかけなかった...
先日の「総統の子ら」から始まって、この「荊の城」と、続けてかなり長編の小説ばかりよんでいるので、なかなか頻繁に読書感想文をかけなくなってしまった。もう少し短めの小説を読めば、それなりにたくさん感想かけるのだけれど...長編小説モードに陥ってしまったようだ。ちなみに今読んでいる小説も「サウンドトラック」古川日出男...これも長い。いったいいつ感想を書けるかわからない。それにもまして自分の読書ペースがかなり落ちている。これは単に仕事が忙しくなってしまっただけのことで、自営業としては喜ばしいことなのだが。
願えわくば、一日八時間くらい読書していたいものである。仕事を隠居でもしなければ無理な話だ。

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)