「サウンドトラック」古川日出夫

しかも、ここのところの風邪の体調不良であまり読書する気になれず、結局読了まで三週間もかかってしまったこの本。確かに厚い本ではあるが、普段の自分の読書ペースからすればあまりに遅い。遅すぎる。そこまで苦労して読んだ本なのできっとおもしろかっただろうと....ところがおもしろくないんだこれが。
正直、各本面で大絶賛されていた「アラビアの夜の種族」の方を借りてくればよかったと激しく後悔してしまった。ひょっとして舞城王太郎の様に、自分にとってかなり当たりはずれの多い作家になりそうな予感がする。
ソレはそれでよしなのだが。
父とクルーザーでの航海中に嵐にまみれ、父は水死してしまい、自力で船を航行させて無人島に流れ着きサバイバルしていた少年(というにはあまりに幼すぎる)トウタ。その無人島に、これまたフェリーから海中へ親子心中をはかった母親の道連れになり、運良く助かり、船でトウタの無人島に流された少女(というにはあまりに幼すぎる)ヒツジコ。やがて無人島からつれてこられた二人を待つモノは、ヒートアイランド化して熱帯性伝染病の蔓延する東京での暴力と違能力とが激しく交錯するバイオレンス小説...なのかな?
この二人と同時進行的にもう一人の主人公レニが登場する。鷹匠のごとく殺人カラスをあやつり、写真銃で敵を撃つ(写真銃とは何か?結局わからなかった)自分の性を場所によって有利に働くように使い分ける少年だか少女だか?
この三人を中心に現代とはすっかり変わり果ててしまった近未来パラレルワールド、東京でのお話なのだが...どうもストーリーの背骨とでもいおうか、話の中心点が全く見えてこない。これはこの小説が三回に分載されていたモノを一つの作品として、後半を書き下ろしたというコトに関係しているのであろうか。
特に後半、ほとんどビビアンガールズと化したようなヒツジコ率いるテレジア学園ダンサーズ(もちろん作中ではそんな名前では紹介されていない。勝手に呼ばさせてもらった)が、超人的なダンスで次々と社会を浄化(としかいいようない)していく。また後半に突然現れたいしいひさいちのマンガに出てくる地底人のような「境界人」とレニの抗争。それに介入して、レニを助けるトウタ。そのまま境界人においつめられ窮地におちいりそうなヒツジコを助けにむかうトウタ...そして物語は唐突に終わる。
う〜ん。ちゃんと、どういう戦いでトウタとヒツジコとレニが窮地を脱出したのかしっかり描ききってもらいたかったな〜これではまるで少年ジャンプの10週打ち切りマンガのラストシーンの様で納得がいかない。
この物語は全体を見渡すように読むのではなくて、部分だけをクローズアップして読み解くべき小説だったのだろうか?それにしてもあまりにつかみどころのない小説である。
しかしこれほど各方面で絶賛されている小説家であるからして、これがすべてでは決してあるまい。なぜだか「アラビアの夜の種族」に激しく期待してしまうのであった。

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