「破獄」吉村昭

戦前に終身刑を受けて入獄し、四度に渡って脱獄を敢行した稀代の天才脱獄犯、佐久間(仮名)の一代記。その天才的才能を「脱獄」のみに使い、また入獄と脱獄を繰り返すだけが人生になっていたような男。もしこの才能を他方面に生かすことができたら、一体どのような偉業を成し遂げられたであろうか?
看守との高度な心理戦。トイレの金具、ハリガネなどはもちろん、食事として支給されるみそ汁や飯粒まで、あらゆる物を駆使して計る脱獄計画。どれをとっても並大抵な精神力ではできない忍耐と、非凡な発想力。彼の前ではあらゆる拘束器具も無用の長物と化してしまう。実在したルパン三世
その脱獄事件は時代背景がちょうど太平洋戦争をまたいでいるので、あまりに大々的には報道されなかった。民衆にいらぬ不安を与えぬためなのだが、むしろソレより「不可能と呼ばれる監獄を四度に渡って脱獄した」というコトに対して英雄的に扱われることをおそれたのであろう。そうはいっても人の口にヘイは立てられず、多くの人たちの知ることとなる。
戦前戦後の刑務所の風景なども事細かに紹介されており、これがなかな人道的な配慮に満ちあふれていたのは驚いた。囚人達の人心が荒れぬよう、刑務所職員は不足する食糧を何とか確保しようと悪戦苦闘する。その結果、皮肉なことに囚人達の方が看守より多量な食料を口にすることができ、その状況に耐えきれずに、つい囚人食をこっそり食した看守が懲戒免職となる。自給自足体制で囚人自らが畑をたがやしていたので、意外にも都会の刑務所より、最果ての監獄「網走刑務所」のほうが戦争中にかなり栄養状態がよかったそうだ。また、戦後GHQ統治下での占領軍と職員との軋轢などが事細かに展開されている。看守という仕事は本当に大変だ。
実はこの本のコトはかなり前にその存在を唐沢俊一ソルボンヌさんのマンガで知っていた。ただその本のタイトルがどこにもかかれていなかったので、ついつい忘れていたのだった。例によって出張前に出張本を確保しようと珍しく書店(年末年始で図書館が休みだった)へ行ったところ、フト目に入った。ココであったが百年目なのもだから定価で買ってしまった。ケチな自分には珍しいことだ。偶然だが週刊文春(いや、新潮だったかな?)でこの本の書評が載っていた。もちろん最新刊などではなく、かなり以前に文庫化されていた本なので全くの偶然だとは思うのだが、自分と同じ本を素晴らしいと紹介されている記事を読むと、何だか自分の選本眼もなかなかなものだわいと自画自賛したりする。
吉村昭って、まだ数冊しか読んでないけど、当たりはずれないね。てか、なぜ画像がないのだはまぞう

破獄 (新潮文庫)

破獄 (新潮文庫)