「プリズンの満月」吉村昭

今回の出張は吉村づくしである。で最初はこの本。
いままで「はずれなし」といっていた吉村昭だったが、これはちょっと?だった。戦後進駐軍に接収され、戦犯の収容施設となった巣鴨プリズン。そこでの日常を描いた作品なのだ。いつものように非常によくできた日本近代史入門書。その部分は普通に面白く読めたのだが、どうしても主人公に架空の人物を設定して、その人となりを表すために、本書の三分の一ほどのページを割くのは、ちょっと巣鴨プリズンの歴史をひも解くのに必要とはどうしても思えなかったのだ。
なんだか、一冊の本にするには文章量が少なすぎて急遽取ってつけたような印象。違和感ありありだった。
ま、それさえ我慢すれば、それは吉村の歴史物、面白くないわけはない。
物語の後半。日本側に受け渡されたプリズンの管理権。それからプリズンはどんどん名前ばかりの収容施設となり、やがては全員釈放となる。やはりそこは戦争犯罪者という「勝者が敗者を裁く」という存在の不確定さを表しているのだろう。
まあ、これらの問題を知ったかぶりして評論できるほど勉強しているわけではないし、自分的には「こんなことがあった」ということを、ちょっとの吉村フィルターと通して読書しているだけだから、あまり突っ込んだ戦犯論などは、それらの専門家に任せるとして...
高校時代まで、特に歴史好きというわけでもない(むしろ嫌い)自分が、すっかり歴史のとりことなってしまったのは、やはり彼の筆致のおかげであることを感謝する。まだまだ図書館には彼の著作がたくさんある。それを思うとうれしくてしょうがないこの頃なのだ。ちなみに今読んでいるのは「間宮林蔵」もうすぐ読了するが、終盤ちょっとだけ、先日読んだ「ふぉん・しいほるとの娘」とリンクするところが出てきて、思わず「にやり」としてしまった。
以下次号。

プリズンの満月 (新潮文庫)

プリズンの満月 (新潮文庫)