近況

「今年も県展の季節になりました。自慢の作品を応募に来ている人たちで受け付け会場はにぎわっています」
毎年恒例春の風物詩、県展(要は県主宰の美術公募展)の季節がやってきました。応募受付が始まったというニュースがテレビをにぎわしている頃、自分はまだ作品製作に悪戦苦闘の真っ最中であった。例によって木彫なのだが、この時点でほとんど四角い材料の面影を残したままの状態であった。
もう何年も挑戦している県展なので、どうしても春になると「ああ、県展に向けて新作を作らなきゃ」と思うのだが、今年は例年になく春先の仕事ラッシュに翻弄されてしまい、全然作品製作に割ける時間を作れなかった。そんな自分が何とかやりくりして捻出した制作時間は...締め切りまで、わずか5日。いくら何でも少なすぎる。人によっては一年近い時間を費やして制作しているというのに、何で自分はいつもこんな状況なのかと、悲しくなってしまう。すでに搬入が始まっているというニュースをラジオで聞きながら、心はアセリまくりながら、それでも制作を続けた。
いや、正直、もう何度も「今年はダメだ、間に合わない」と本当に思った。
とうとう搬入締め切り日の朝が来てしまった。いまだ気に入らないアラが過剰に目についてしまい、あそこを直しここを直ししているうちに、時刻は正午を回ってしまった。応募の締め切りは午後4時....応募会場までは車で一時間の距離...この期におよんで、まだ制作を続けている自分が哀れになってきた。
このまま制作を続けていてもキリがない。とりあえず、応募会場まで持って行こう。後のことは後で考える。車に飛び乗り、会場めざし出発する。着いたのは午後二時近間。締め切り二時間前。こんな時間に駆け込み搬入する人はほとんどいなく、応募作品もすでに会場にずらりと並んでいる。
シマッタ、コイツら、どいつもコイツも自分よりウマイでないか!!
このまま「やっぱり今年はパスですうう!!」といって会場から逃げ出したくなってしまった。が、ここで逃げては男がすたる。目をつぶって受け付けに出展料四千円を払い(ああ、四千円あったら行きつけの激安酒場で「いいちこ」を一本ボトルキープできるのに)ドンと作品を置いて、なるべく他の人の作品は見ないようにして、逃げて帰ってきた。そこまで来てようやく冷静になって会場を見渡すことができる心理状態になった。彫刻部門の会場は洋画部門と同じなのだが、洋画部門にも、このせっぱ詰まった時間に搬入する人がちらほらいる。そういった人には共通点があり、ソレは何かといえば「作品を裸でそのまま搬入している」コトだ。絵画作品の搬入時には、普通はそれなりに表面を梱包してくるのだ。コレはつまり、ついさっきまで描き続けていた物を、絵の具の乾かないまま裸で駆け込み応募したということだ。まったくどいつもこいつも同じコトをしやがる。
県展とはいえ、応募時間によってさまざまな人間模様がかいま見れ、結構ステキじゃないか?
まだ学生時代やその後、数年くらいまで、友達に誘われて、一緒に日本グラフィック展(パルコ主催)なんぞに挑戦したこともあったが(もちろん玉砕)そのときも、制作時間はほとんどとれず、結局搬入日の前日に徹夜で書き上げたB全のイラストを、そのまま徹夜で応募会場までふらふらになって持ち込んでいた。やはり同じように徹夜明けと思える若者達が、徹夜明け故に妙にハイになって行列していて、言葉には出さないが、奇妙な連帯感のような物を味わったことがある。
ソレとはちょっと状況的に違っている県展ではあるが、やはりこの「締め切り間際の搬入」というのは、似たような空気間が漂っているように思えた一瞬であった。
ところで、自分の結果だが...
入選しました。
実に初入選から4年ぶり、二度目の入選でした。あんなに追いつめられて作ったのに...ヤッパ人間なげたらあかんね〜
毎年思う今年の反省。来年こそはもっと計画的に制作時間を確保しよう...ちなみに新潟県県展は今週の日曜日が最終日です。ご覧になるなら、お早めに。