「指先で紡ぐ愛」光成沢美

知っている人はかなり少ないと思うが、この本は一年くらい前のNHKラジオの朗読番組で紹介された原作である。この番組ではNHKの超有名アナウンサーの小野文恵さんが朗読を担当して、確か、毎日10分くらいづつ二週間くらい続いたもんだった。小野文恵さんの朗読があまりにはまっていて、番組放送中から大反響があった。
今回その原作を読んだわけだが、ラジオ番組とは構成が若干違っていて、このためかなり印象の違う物になった。
番組では最終回に紹介されたエピソードで、作者が鬱病になりなにもできなくなってしまったとき、夫に離婚を切り出したが「絶対いやだ」と夫婦の絆を強く感じさせる夫のセリフで感動的に終わったのだが...
コレは実は本のプロローグだった。
タイトルからして夫婦愛のろけエッセイのようだが、実はかなり大変な夫婦なのだ。夫の福士智さんは「全盲ろう」である。全く見えず、全く聞こえないという傷害を持っている。その方と結婚したのが本書の著者の光成沢美さんだ。つまり夫は妻の顔も声も知らないのだ。コミュニケーションは「指点字」と呼ばれる方法でとられている。
指点字とは
http://www1.u-netsurf.ne.jp/~macky/yubi.html
こんなもの。他にもググったらこんなのでました。
http://journal.mycom.co.jp/articles/2005/03/24/ubitzky/
だから生活も大変なのだろうな〜と思いきや、割と普通に冗談言ったり喧嘩をしたりだったりする日常が紹介されている。
話を元に戻そう。本来プロローグに当たるところをラジオ朗読ではエピローグに持ってきている。しかもかなりネガティブだ。コレによって本の内容の印象ががらりとかわってしまっている。コレをいいとするか悪いとするかはラジオのディレクターの考えだからしょうがないとして。やはりここは原作通りの方が作者の意図をより正確に伝えていると思うのだ。つまり、ラジオ朗読版のエピローグの持ってきた場合「困難だけど、愛があります」といったハッピーエンド的結末になるのだが、原作版のプロローグに持ってきた場合は「愛はあるけど、困難です」という、読む前に読者にそれなりの「覚悟」を強いている。つまり、小野文恵アナウンサーのキャラにもよるのだと思うが、現実はそんなハッピーエンドじゃないし、まして現実の生活にエンドはないのだよという気構えが、この本書からはかなり強く伝わってくるのだ。
そんなに厚くない本だし、多分どこの図書館でも必ず入っている、てか、課題図書に選定されてもおかしくない本だし、ちょっと読むのどうでしょ?

指先で紡ぐ愛

指先で紡ぐ愛