「風に舞いあがるビニールシート」森絵都

ご存じ、今期芥川賞受賞作。
図書館に貸し出し予約を申し込んでから三ヶ月ほど経ってやっと借りられた。それほどの人気である。中身は表題作を含む短編集。これ以前に読んだ「DIVE!」が大長編だったので、何だか物足りない気がしないでもないが...
ケーキの先生に翻弄されて、新作スイーツを盛るための焼き物を探しに、よりによってクリスマスイブに窯元が詰まる地方まで出張を突然命じられた主人公。その日はキット恋人から重大な申し込みがあるかもしれないというのに。仕事と恋の板挟みになりながらも、窯元で出会った陶芸作家の弟子との会話の中で、何かを吹っ切れそうな予感を感じる話。
仏像に対する思い入れが純粋すぎるが故に、良い腕をしながらも仏像修復師へは慣れなかった若者の話。やがて修復にかかわった仏像の出自に関する秘密を知ることになる話。
他にもいろいろあるのだが、何とはなしに去年読んだ福井晴敏の短編集「6ステイン」に雰囲気がにている。静かな出来事の中にも嵐があり、ソレを経験していくことによって成長していく人たちが出てくるのは、ソレが最近の小説の流行ではなくて、普遍的な物なのだろうかと、ちょっとだけ考える。
佳作集だけど、この人の場合はやっぱり長編が読みたい。
寡作で遅筆な作家とだということは百も承知なんだけれども。

風に舞いあがるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート