「奇術師」クリストファー・プリースト

子供の頃、サーカスを見に行ったことがあった。開演前に入場すると自分の席の近くには大きな木の箱が屋根から吊らさげてあった。一体コレは何だろうと思っていたのだが、いざサーカスが開演したと同時にその箱のコトはすっかり忘れてしまっていた。舞台では球状の檻の中をぐるぐる回るオートバイ。猛獣使いに、日本古来の水芸。空中ブランコにピエロの滑稽なパフォーマンス。幼少の自分はすっかり心を奪われてしまっていたのであった。
そしてサーカスのクライマックス。最後の出し物はイリュージョンであった。ちょっとした小手先の技からはじまってだんだん大がかりな手品へと進んでいった。そして最後に出た大出し物...イリュージョニストの手により、箱の中に入れられた美女は、一瞬のうちに箱の中から消えてしまった。騒然とする場内の中、先の入場したとに自分のそばにあった大きな木の箱を止めていたロープを切られると、怒濤のごとき勢いで、中央ステージへ突進していく。ステージ中央で停止すると、その箱の封印が解かれ、ふたが開くと同時に中から先ほどステージで消失した美女が、楽団のファンファーレと共に登場するではないか!!
少年イドは大感激であった。
前振りが長くなったが「奇術師」共に瞬間移動トリックを得意とするライバル奇術師同士が、その瞬間移動芸を競い合うという物語なのだが、そこにアメリカ最大の奇人、ニコラ・テスラが絡んできたのだからややこしい。一体どこまで現実で、どこからがトリックなのかサッパリわからなくなる。
そんな不思議なトリックも、きっと理路整然とした解決がなされると思い、記述の断片を拾いつつ「ひょっとしたらこんなトリックがなされたのではいのか?」などといろいろ策を考えてみた。
結果、まんまとプリーストの魔法に引っかかってしまった。え〜ソレが答えですか!!シマッタ、最初から騙されしちまった〜と、つい思ってしまった吃驚なラスト。ええ!!ソレってアリか!!と怒りたくなるのだが、あまりと言えばあんまりなラストではあるが、コレは納得するしかない。
元をただせばSF作家のプリースト。最近はSFよりもファンタジーよりの作品が多いので、本作を純粋に「普通の小説」と思いこんで読んでしまった自分の負けだ。
出張先の古本屋で、ついうっかりこの人の昔の作品「スペースマシン」と「逆転世界」を購入してしまう。最近ブレイクした人だとばかり思っていたが、モノスゴク長い作家歴のある人だと知って、改めて驚いた。また、読んだら書評書きます。
ええと、最初に書いたイリュージョンの種明かしだけど...今更言うこともないが、舞台で消えた美女のそっくりさん(双子なら完璧、そうでなくても背格好が似ているだけで、同じ衣装と同じ化粧でOK)がお客が入る前にはこの中に隠れていて、ひたすら出番が来るまで箱の中に隠れていただけである...