「ペット・サウンズ」ジム・フジーリ 村上春樹、訳

このところ更新が滞り気味で、一体なにがおこったのだろうかと心配なイドノカイブツファンの皆様(推定三人)お待たせしました。待望の書評です。多分誰もまっていないけど。どうせ更新が遅れているのも、やたらと長い小説読んでいて更新するのがめんどくさいのだろうと思ったあなた、正解です。今読んでいるの岩波文庫全七巻「モンテ・クリスト伯」ようやく五巻まで読了して終わりが見えてきたところである。
やたら長い小説を読んでいるときには、どうしても息抜きに何か別の本を読みたくなる。そこで今回読んだ本はコレ。ま、あんまり劇的ってワケではない。児童向け(ではないな)ほんわかとかみ砕いたブライアン・ウイルソンの伝記である。伝記とはいえ小学校の課題図書...などには間違ってもなりそうもないが。ソレを村上春樹が翻訳しているのだから、コレはもう自分が読まなくて誰が読むんだという一冊だ(自意識過剰)
初めてペット・サウンズのCDを買ったのは、まだCDがレコードに取って代わるか、かわらないかの80年代の終わり(あるいは平成の初め)だったと思う。買った当初は全く理解できず、そのころ一緒に買ったビートルズの「サージェントペパーズ」の方をよく聞いていた。そっちのほうがわかりやすかったから....今では、たまに「ペットサウンズ」のほうは聞くが「サージェント...」に至っては、CDがどこにいったかわらない始末。時代の移り変わりが自分を変えてしまったのであろう。
本書だが、ペット・サウンズの作品に対する解説には特に目新しいモノはない。何年前だったかなあ...NHKBSで萩原健太とゲスト達が集まってペットサウンズに関してトークを繰り広げまくる(今でいう「BSアニメ夜話」みたいな感じ)番組で、萩原健太がギター片手に「ほらここで普通だったらこう行くコード進行が、ブライアンの場合はこうなってこうなって...」ああ、文字で書くとサッパリ解らない事柄を、そのコードをギターで弾きながら解説してくれた。実にわかりやすい、明瞭な名解説であった。ま、ソレを文章だけで解説しようとした著者もエライかもしれないけど「ここでAmがからDへ行かずにEmとかA#mへ移行していくのだよねえ」といわれても理解できない凡人の悲しさなのだよねえ。
本書で一番ビックリしたことは、ブライアンのオヤジの悪行三昧である。ブライアンの片耳が聞こえないことはあまりに有名。その結果、彼の作品のほとんどがモノラル録音だったりするわけだが(最新作「スマイル」はステレオだった)その聞こえなくなった原因というのが、二歳の時にオヤジに耳を殴られ聞こえなくなった...二歳の子供の耳が聞こえなくなるほど殴る暴力オヤジ...現代なら逮捕だ。その後もマネージャーとして、いない方が明らかにコトがスムースに進むのに、コトあるごとに邪魔をするブライアンのオヤジ。最後には自分がマネージメントしていた時代のビーチボーイズの版権全部を75万ドルでうっぱらってしまうという暴挙。(一ドル100円としても7500万円...全部の版権だよ!安くね?)
自分はこんなオヤジにならないようにしよう。
とまあ、自分の知らなかったブライアンのコトをいろいろ知ったのだが、何故か消化不良というか、読了後の満腹感にかける。かの大御所、村上春樹がペットサウンズに対するものすごい思い入れ満載で翻訳した本だと思うのだが、もし彼が翻訳しなかったら、誰も気に留めるものもなく埋もれてしまう一冊なのかもしれない。
自分がブライアンを知ったのは、確か80年代半ば。小林克也の「ベストヒットUSA」という番組で「ビーチボーイズのリーダーで病気療養中だったブライアン・ウイルソンが新作ソロを出した」というニュースだった。その後、ブライアンの主治医(精神科医だったとおもったが)がマネージャーとなったとか、医者が治療を超えて個人的な営業関係を結ぶのがアメリ医師法違反とかで、その医者が医師免許剥奪されたり(うろ覚えなので、違っていたらゴメン)その後、ブライアン抜きのビーチボーイズと、本家ビーチボーイズ名争いで法廷闘争したり、結局ブライアンが負けて、ブライアン抜きの方がビーチボーイズを名乗り(マイク・ラブのバンドだな)ブライアン抜きのビーチボーイズ名義の「ココモ」というクソアルバムが、堂々トップテン入りしたり、負けずにブライアンも、実現不可能と言われていた「ペット・サウンズ」を完璧にライブで再現できるバンドメンバーを育てたり...ソレまでビーチボーイズなんて50年代の懐かしポップソングくらいにしか思っていなかったのだが、波瀾万丈ありまるのであった。
今ではブライアンといえば自分の「音楽神」である。ナニがきっかけで、音楽にハマるかわかったものではない。

ペット・サウンズ (新潮クレスト・ブックス)

ペット・サウンズ (新潮クレスト・ブックス)