「モンテ・クリスト伯」アレクサンドル・デュマ

あらすじはこちらで(ネタバレあり)
ようやく読み上げたモンテ・クリスト伯だ。以前、コレと勘違いして読んでしまった「ジャン・クリストフ」(何で間違えてしまったんだ?)から、ここのところ読んでいる本は岩波文庫ばかりだ。何とも高尚な読書であろうか!!ってことはなく、たまたま翻訳版が岩波しかなかっただけだ。子供向けは多分いっぱい翻訳があるのだろうが、大人向け本格派な翻訳は岩波版だけだろう。いずれ光文社あたりが新訳を出しそうな気はするが。
第一巻を読み続けているうちに気になることがあった。何だか子供の頃読んだ児童文学の「巌窟王」にストーリーが似ているなあと...冗談ではなくて、モンテ・クリスト伯巌窟王であったことにようやく気が付いた。ひょっとしたら自分だけかもしれない、そんなヤツ。ひょっとしてバカ?
主人公エドモン・ダンテスが無実の罪で投獄させられて、脱獄して巨万の富を得る。そこまでくらいしか子供の頃の記憶がない。まあ、その後のめくるめく大人向けストーリーはチョット子供にゃ読ませられないもんな。第二巻の後半、巨万の富を得たエドモン・ダンテスがモンテ・クリスト伯や船乗りシンドバッドを名乗り、モンテクリスト島にパノラマ島みたいな秘密基地を作り、そこにかつての恋人の息子の友達を誘い込み、ハッシッシで接待するところなんかは、まさに乱歩的。とりあえず、昔世話になった恩人には善行を施しておいて、ソレが完了すると、さあ華麗なる復讐の幕開けです〜とはスグに行かないところが憎い。何せかつて無実の罪で投獄させた憎き敵たちは、エドモン・ダンテスが15年も投獄されている間にかなり社会的地位に成り上がっていたのである。そんな奴等をどん底にたたき落とすために、金に糸目をつけない策略で、復讐される当事者達にはソレとは気づかれない様に、徐々にその包囲網を狭めていくのである。
そんなことが延々全七巻に渡って繰り広げられていくのだが、その間全く話がだれることなく、一気に読み続けることができる(というのは大げさか。さすが岩波文庫七冊一気に読むのキツイ)
数多くの登場人物が交錯する一代絵巻なのだが、個人的にはノワルティエという老人が好きだ。まあ、この人も自分では気が付いていない形ではあるが、エドモン・ダンテスが投獄される遠因を担っているのだが...再度登場したときには脳梗塞のため、全身を動かすことができない重病人となっていた。唯一動かせるのが目蓋だけなのだ。そして目蓋を開け閉めするだけで「イエス」と「ノー」という意志を伝えることができる。たったそれしかできないというのに幾度か訪れる最愛の孫娘の絶体絶命な危機を何度も救ってしまうのだから驚きだ。子供の頃見た特撮テレビ番組「スタートレック」に一度だけ出てきた、初代エンタープライズの指揮官クリストファー・パイク艦長みたいだ。彼の場合は箱に入っていて、その箱に赤と青のランプが取り付けてあり「イエス」が青ランプ「ノー」が赤ランプ。「タロス星の幻怪人」という話に出てくる。これも傑作だ。元祖パイク船長がモンテ・クリスト伯にあったなんて、初めて知ったよ!!
さて、何故こうまでしてモンテ・クリスト伯が読みたかったかというと、古典的SF名作、アルフレッド・ベスターの「虎よ、虎よ!」なんだよね。(ベスターの「虎よ、虎よ!」は大好き。ベスターではあと「分解された男(破壊された男)」も好きだ。そのほか何冊か読んだが、すべてサッパリワケが解らない小説ばかりだが)....その解説に「コレはSF版モンテ・クリスト伯だ」と書いてあったのをずっと覚えていたんだよね。初めて「虎...」読んだのが確か高校生の頃だったから、その時「そうか、ならモンテ・クリスト伯も読まなければ」と決心した。それから30年。今ここにようやく念願かなって読了したのであった。
それにしても本書は百六十年も昔に書かれた小説が、今でも輝きを放っている。そして現代カルチャーの思わぬところに、その片鱗を魅せるコトに驚く。全くコレだから書痴はやめられないのだよ。

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

モンテ・クリスト伯〈1〉 (岩波文庫)

全七巻。読み応えあるぞ。しかも中ダルミなし、一気読み可能!古典名作とは、素晴らしいエンターテイメントなのだよ〜!!