「兄弟」余 華

最近いろいろなメディアで取り上げられている作品で話題作なので注目していた。何せ中国で一番ノーベル文学賞に近い作家と言われているだけあって、とてつもなく素晴らしい作品だと思いこんでいた。
とんでもない!!素晴らしくない!!
しかし小説的におもしろくないかと言えば...とんでもない!!とんでもなくおもしろく、とんでもなく悲しい作品である。このとんでもなさというのが...タイムリーにも北京オリンピックという国家をあげての狂騒状態がリアルタイムに行われている国からの発信された作品であることに意義がある!!
...ま、意義的にはたまたまオリンピックがあったという感じではあるが...内容がとんでもないだけに、どうやら中国では賛否両論のようだ。この「中国では賛否両論」と言うこと自体がかなり特殊な状況ではないかと思うのだが?何せ本国の選手が試合前に不調を訴え棄権しただけで国を挙げて売国奴扱いされる国である(障害物の選手だったっけ?)どちらかというと時流に乗ってしまえばソレが正義。それ以外は悪という簡単明瞭な国民性(とか断言しちゃうと、某所から怒られそうだが)そんな中で「賛否両論」巻き起こること自体でこの作品は存在価値がある。もちろん自分は賛成である。
本作品は前後編で「文革編」と「改革開放編」と別れているのだが、この中でも「文革編」は文学テイストあふれた名作なのだ。まるで今日本で何故か流行している「蟹工船」のごとく、文革で虐げられ、なぶり殺しされた主人公一家(特に家族のお父さん)を中心にこの世に理不尽(というか文革の理不尽)をこれでもかという筆致で描いたのだが、一転して後半の「改革開放編」ではいきなり「処女膜コンテスト」である......ヽ(´ー`)ノ「人工処女膜」である.....ヽ(´ー`)ノ「豊胸クリーム」である......ヽ(´ー`)ノ
改革開放って?...これが中国の怖いところなのか?キーワードだけ注目すればここまで極端だけど、実際に本書を読んでいると、意外にも違和感なくこんな狂騒状態に普通に移行できる。この極端から極端へ違和感なく移行できる国民こそが「中華人民共和国」であり、それ故に中国では珍しい「賛否両論」騒動だったのであろうか?どちらにしろ、中国では百万部を優に超える大ヒットとなってしまった本書。まあ、中国10億人を(おおすぎないか?)考えれば、日本にしたら十万部程度のヒットだ.....てか、それってスゴイ大ヒットじゃないか!!
最近ネットにぎわしている国家的クレーマー中国人。しかしそれ以外にも百万人くらいは自体を冷静に見て取れる「大人(ターレン)」な人たちが中国には存在しているのである。
先日読んだ「馬賊戦記」以降どうも中国に興味が湧いてきて、いろいろ中国関連の本を読んではいるのだが...やはりソコは人間の行動として中国人も日本人もあまり変わらないのではないかと思うこの頃なのである。
なんか中国論で一杯になって、肝心の書評がおろそかになってしまったが、それくらいいろいろ考えさせられる一冊であることを保証しよう。とはいえ読了後未だに何だか訳のわからない熱にうなされるような作品であったことは確かであり、この何だか訳のわからない熱量こそが現在の中国を謎つくキーワードではないかと思えてならないのだ。
むずかしいイデオロギーはおいておいて、とりあえず普通におもしろい作品なので、気がむいたら読んでみては?おすすめ。上下巻二冊で一見長そうだけど、一気読み可能。
誰が何と言おうと、この本は好きだ。

兄弟 上 《文革篇》

兄弟 上 《文革篇》

兄弟 下 《開放経済篇》

兄弟 下 《開放経済篇》