「願い星、叶い星」アルフレッド・ベスター

「ゴーレム100」を読了したときに、もうベスターはやめようと思ったのに。図書館で見つけてつい借りてしまった。翻訳されるのが50年くらい遅かったような短編集。というか創元社の「ビー・アイ・マン」に載っている短編の半分くらいが新訳ではいっている。それがどうした?ビー・アイ・マン自体が絶版状態でなのでコレを喜べばいいのかもしれないが、いかんせん小説の題材が古すぎて、現代とは全く合わなくなっている。これがまだ50年前だったら、すこぶる新鮮なのに...
表題作「願い星、叶い星」はとんでもなくつまらないので無視するとして、まあデストピアものというか、人類滅亡モノというか、タイムマシンものというか、何とも古式ゆかしいストーリーが少々のパンク的文体で綴られている。個人的には巻頭を飾る「ごきげん目盛り」が「おっ」といわせる構成の妙であったが、ほかはほとんどどうでもいい。さて問題は収録されている最後の作品「地獄は永遠に」だが、コレはこの本の半分くらいの長さで短編というより中編だ。しかもベスターが「分解された男」などで名を馳せる前に書かれた作品で、本邦初翻訳作品なのだ。ひょっとしてコレを出版するために...しかし一冊の本にするには分量があまりに少なすぎてしょうがないから、過去の短編を新訳して何とか体裁を整えた感じがものすごくするのだが。
時期的には「ゴーレム100」の前に出版されたのだが、ひょっとしたら長らくお待たせしたゴーレム100の予告編的に「コイツも一丁売ってしまえ」ってなのりで出したのだろうか?それより何より、翻訳者自らがあとがきにて「これほど待ち望まれた作品もなく、これほど失望させられた作品もない」とベスターの「コンピュータ・コネクション」(サンリオ文庫、絶版...高校時代に読んだが、訳がわからなかった)を紹介しており「意欲作であることは認めるが、形式先行、実験のための実験の感が否めない」と「ゴーレム100」を酷評している。わかるわかる、その気持ち。こんなのが「SF読みたい2008」の海外部門に堂々ランクインしているのだから、わけがわからない。
↑よく調べたら「ゴーレム100」と本書は出版社が違っていた。なら酷評もアリか(←おいおい)
とにかく眠い。普通このくらいの厚さ(380ページ、しかも二段組みでもなければ文字も12ポイントほどで老眼にも優しい)だったら三日もあれば読了できるのだが、二週間近くかかってしまった。とにかく睡眠導入効果が抜群なのだ。難解な内容だと、よくこの様な現象が起こるが、果たしてそうだったのだろうか?眠くなるほどおもしろくない内容だったのかもしれない。
けなしすぎてもしょうがないので、チョット褒めておきましょう。最後の「地獄は永遠に」だが、コレは出だしが「ゴーレム100」を彷彿させるような、あるいはサラ・ウオーターズの「半身」を彷彿させるような感じではじまり、割とこういう世界観は自分は好きだったりする。悪魔が登場するところなんかは、お約束っぽいが、ちゃんと複線を貼っているのでコレはコレでよい。まさかラストのオチがディックの「ユービック」だなんて、あんまりだ!!
と思ったが、よく考えたらあっちよりこっちの方が先に書かれているんだよね。う〜む、やはりベスターは偉大だったのであろうか?
いや、最高傑作である「虎よ、虎よ!」は、きっとベスターが悪魔に魂を売り払って書いた小説に違いない。きっと「これ以降、ろくな作品が描けなくなってもいいから、歴史に残る名作を我に書かせたまえ!」と願ったに違いない。