「分解された男」アルフレッド・ベスター

「もっと引っ張る、いわくテンソル。緊張、懸念、不和が来た」
初めて読んだとき自分はまだ高校生だった。そのころは人があまり読まないような本を読んで「俺ってスゲー」と思いこんでいた青臭い少年だったが、現在でもあいかわらず、人があまり読まないような本を読んで「俺ってスゲー」と思いこむ青臭い中年になっただけのようだ。ま、30年ぶりくらいに読み直してみたのだが。
当時、ベスターといえばハヤカワの「虎よ。虎よ!」の方が有名で、こちら東京創元社の本はあまり知られていなかったが、ところがどっこい本国アメリカでは「分解..」の方が評価が高いのであった。どのくらい高かったかというと、あまりにスバラシイので、ぜひ何か賞を上げたいということで創設されたという噂の「ヒューゴー賞」第一回受賞作。この時の対抗馬があの超名作「幼年期の終わり」(アーサー・C・クラーク)だったというのだから、驚け!
で、高校時代に読んだはずなのに内容はすべてキレイサッパリ忘れていてしまった。ただ、あの有名な歌だけはずっと忘れられずにいた...
「もっと引っ張る、いわくテンソル。緊張、懸念、不和が来た」
主人公である悪の化身ベン・ライクが超能力者に心を読まれずに、悪事をはたらくときにはいつも頭に思い浮かべていた歌だ。テレパスが心を読んでもこの歌が聞こえるだけなのだ。結局読者の頭の中にもこのフレーズが張り付いてしまい、何十年経っても、本の内容などすべて忘れてしまっても、このフレーズだけは永遠に生きのこり続けているのであった。
恐るべしベスター。
ひょっとして第一回ヒューゴー賞はこの歌に捧げられた賞だったのではないか?
ま、元祖サイバーパンクっていうか、作品中に展開される独自に創作された文化などはそれなりにおもしろかったが、やはり...
「もっと引っ張る、いわくテンソル。緊張、懸念、不和が来た」
このインパクトにはなにものもあがなえない。
ちなみにベスターはこの後の「虎よ、虎よ!」で才能のすべてを燃やし尽くしてしまったようで、「コンピューターコネクション」や「ゴーレム100(百乗)」などの長編を発表するも、どちらもサッパリ訳のわからない駄作である(←あ、断言しちゃった)「ゴーレム...」の方は数年前にようやく翻訳が出たので読めるが「コンピューター...」は、あのサンリオ文庫なので、廃盤。現在入手困難なので古本屋などで高価で取引されているはずだ。ブックオフの105円で発見したときは迷わず買おう。読まなくてもイイ。つまんないから...

分解された男 (創元SF文庫)

分解された男 (創元SF文庫)

「分解..」は読もうよ。歴史に残る一冊だから。
いまアマゾン見たら、「虎...」の新装版の表紙は克也君じゃないか!!