で、「無名」沢木耕太郎ですけど

 これは2000年に出版された「血の味」を一緒に読まれることを強くお薦めする。「無名」は沢木の父の最後の数日間を描いたノンフィクションだが、「血の味」は全く創作の純文学である。しかし、この二作品がお互いに響き合っている。「血の味」での唐突ともいえる展開の説明らしきことがこの本にちょっとだけ書かれている。
 図書館で借りてくるのがいつもの読書スタイルだったのだが、沢木と京極夏彦の新作だけはしっかり購入しようとしていた。それがここ数年、気が付けば新刊発売後半年とか経過していて、図書館で借りるにはちょうどよい頃合いになっているのだ。そこで今回も図書館から借りた。
 実は出版されていたことは知っていたのだが、すっかり忘れていた。年末に仕事をしながら聞いていたNHKラジオで沢木耕太郎がゲスト出演していて、この「無名」について話していた。その際、父を称して「情報のインプットはかなりしていたが、一切アウトプットはしなかった人」と。また金属溶接を仕事としているを父に、そのおもしろさを聞いたとき、嬉しそうに答える父の様子などが印象に残り、コレは読まなければならないと思ったのだ。
 本書では「生活力のない」父として書かれてはいるが、かといって家族に疎まれているわけではなく、それどころかそんな父をみんなで愛している。羨ましい限りの家族である。死ぬまで市井の人だった父へのオマージュが心に染み渡る...と言うよりは、サスガに自らの父となると、沢木もセンチメンタルにならざるを得ないのだなあ〜という内容だった。
 よく考えたら、取材対象への思い入れの深さといったら、この人以上に深い日本現在作家にはいない。それが今回父だっただけの話だ。
 いつもの事ながら、ほれぼれするような美しい文章だよな〜いつも思うのだけれど、沢木さんは絶対パソコンで文章は書いていないと。