「透明人間の納屋」島田荘司

 体調不良とはいえ、娘は容赦なく「休みだからどこかに連れて行け」とせがむ。いつものように市立図書館へ行くと、土曜日にもかかわらず「休館」図書館は国民の休日には何が何でも休みなのだが...春分の日だったとは。
 仕方がないのでちょっと遠い公民館へ行く。小さいながらも図書館があるのだ。「あさりちゃん」が全巻そろっているので、娘にそれを読んでいてもらう。自分もヒマなので何の気なしにタイトルの本を手にする。意外に面白く「もう帰ろう」と言われるまで読み続け、結局貸し出しして続きは家で読んだ。
 昔はかなり好きで、御手洗潔シリーズは「アトポス」まで全部読んだ島田荘司だが、最近はとんとご無沙汰していた。この本には御手洗は出てこないが、とても子供向けとは思えない内容だ。しかし島田荘司の「今この混迷の時代をこれから生きていかなければならない君たちには、しっかり知っていてもらいたい」といった内容。彼のことだから、子供向けだからと言って特に文体を替えることもなく、しいていえば「全漢字にルビ」と「主人公が少年」くらい。もちろんほかの島田作品のように、裸も女性もしっかり出てくる...もっとも物語上必要だからだ。
 ノスタルジイと一言でいってしまえばそれまでだが、それだけでは済まない、そこはかとない悲しさが全編を貫いている。この本も以前読んだ「くらのかみ」小野不由美と同じ講談社ミステリーランドシリーズなのだが、なんか良いのよこのシリーズ。子供から大人への通過儀礼ミステリーとでも呼びたくなるような新ジャンルへの編集者の思いが、うまい具合に作者達に伝わっているような。
 他のも出ているのを見かけたら、是非読みたい。うちはまだ早いが、今小学六年生〜中学三年生くらいの子供がいたら親子で一緒に読みたいものだ。あと、表紙や挿し絵がいいねえ〜シュールで。ホント思い切った編集していて、喝采を送りたい一冊です。泣けます。