「おたく」の精神史 1980年代編 大塚英志

 今気がついたが、最近よく手にする大塚英志の本だが、数ある彼の手による原作のマンガは一冊も読んでいなかった。それで、大塚英志のことをどうこう言うのもおこがましいってモノだ。
 それにしても何で今頃1980年代なのだ?ちょっと遅れてきた1980年代評論。本書を読めばわかるが、どうも氏はあまりに深く「M君事件」に関わりすぎてしまったから、書きたいことがたくさんあっても書けない状況であったと推測する。あくまで憶測ですので...
 彼のほかにも1980年代を独自の切り口で書いた本は、沢山書かれている。その中でも「切通理作」がもっとも有名であろう。彼の時代のことを思い入れたっぷりに、しかもウエットに、悲しくも、楽しい事なんて何もない、でも懐かしい、そんな思い入れがこれでもかと押し込められた文章に影響を受けた人も少なくないであろう。彼の初期の評論集「怪獣使いと少年」はそんな意味で、古き悪しき時代を切り取った、名作である。タイトルはかの有名な「帰ってきてウルトラマン」の一エピソードからとられている。
 そんなウエット感とは違い、割とクールに1980年を切り取った大塚英志。とはいえ、やはり思い入れの多い年代であろう。クールに鳴ろうとしてもクールになりきれない。というか、クールに著述しようとすればするほど、ないがかいてあるんだか、サッパリわけがわからなくなってしまう(自分に読解力がないだけかもしれないが)「おたく」の名付け親の(自称?)中森明夫の話などそれがどうした話が続き、比べるつもりはないのだけれど、つい切通理作と比べてしまい、そのクール差に違和感を感じる。なんだか大塚英志は1980年代に言い訳しているだけのように思えてならない。
 とはいえ読んでいる自分だって「クールに著述しようとすればするほど、ないがかいてあるんだか、サッパリわけがわからなくなってしまう」文章のため、半分以上斜め読みしているので、こんな自分に大塚英志はとやかくなんかは言って欲しくないであろうな...しかも図書館から借りて読んでいるのだから、自分が彼の本を読むことによって、彼の懐に印税が入るということは一銭だってないのだから...