ところで野坂

 昨日の感想じゃ何がなにやらわけがわからんと自分でも反省して、もう少し詳しく書いてみる。
まず代表作「エロ氏士たち」(タイトルうろ覚え)はほって置いて「浣腸マリア」いかにもSMっぽいタイトルだが、タダ単に登場する家族達が内職でイチジク浣腸の容器のバリを、肥後の守(今でいう折り畳みナイフ)で削っていただけのことであって、以降話の展開にはまったく関係なし。祖母を虐待する継母に反抗してモーホーに走る少年。しかしその父も実はモーホーで、それ故の悲劇から継母は祖母を虐待していたのであった。最後に女を継子に教えようと自らの体を呈する継母であったが...ここで突然終わる。
 「水銀大軟膏」は前に感想書いたから「子供は神の子」逆「火垂るの墓」お兄ちゃんが幼い妹を殺しちゃう話。その後いきおいあまって祖母と母まで殺してしまう。後は父のみ...他にも妹殺しの贖罪から逃れられず、自分の娘も殺してしまう、うら若き母の話とか...とにかく全編救いがなさすぎ。これがかつて筒井康隆が自分のエッセイの中で「最近の歌手は下手な小説家よりもずっと面白い小説を書く」と絶賛していた野坂作品だ。ホント野坂といえばアニメ「火垂るの墓」の原作者以上の情報を持っていなかった自分には驚愕の作品集であった。火照るの墓を必修図書などと小学校の図書館に10冊以上買い込んでしまうなどということはやめて、今すぐ破棄して、かわりに原作マンガ版「風の谷のナウシカ」を入れよう。
 「プアボーイ」舞台が途中から新潟になったので、ちょっとだけとっつきやすい。モーホーになりかけた少年(またモーホーかい)を引き取った夫婦。いつしか若い妻と少年の間に...と、お約束の展開になるのかと思わせておいて...唐突に終わる(こればっかり)野坂と新潟との結びつきは、以外に古かった。新潟県民でもすでに忘れ去られていることではあるが、そんな昔でもない頃、野坂は田中角栄の選挙区に立候補したことがあった。結果はいうまでもない。彼なりに、勝算はなくとも意義のある行為であったのだろう。その片鱗を少しだけ感じさせる。この後何冊も彼の著作を読み解けば、あの時の疑問も解けるであろう...というほど立候補事件の真相には興味あるわけではないのだが...
 「とむらい氏たち」むちゃくちゃな葬式商売を考えて展開していくうちに、いつの間にか新興宗教の教祖に祭り上げられていった主人公。気がつけば、いつの間にか第三次世界大戦(?)が勃発し水素爆弾で人類が主人公を残して全滅する。あらすじだけ書くとサッパリわからない。話に収拾がつかなくなって水素爆弾をおとしたのか?
 「マッチ売りの少女」そこまでやるか...悲惨この上なし「ベトナム姐ちゃん」慈愛に満ちた女性の末路。かなり悲しい。
 他にも何本か短編があったがほとんどは「戦後の悲惨な日本人」というしか表現仕様のない作品ばかり。コレを称して「新戦後派」とよばれていたのでしょう。どれもコレも悲惨なストーリーの中にもキラリと光る70年代ペーソスとでも呼びたくなるエスプリ満載で、自分的には以降野坂にはまりそうです(ところでエスプリってなに?)