月にはうさぎが住んでいる?


月に繭地には果実 (下)
福井 晴敏

おすすめ平均
思わずニヤッと

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 ターンエーの極意、それは中庸である。
 今回の出張本(出張時の退屈しのぎのための本)はこれでした。全三巻。総1000ページを悠に超える分量は三泊四日では長すぎるかと思ったが、なんと読了。一気読み。ほぼ一日一冊ペース。それほど内容が面白いかというと...大虐殺ターンエーガンダムである。上巻中巻まではアニメのターンエーガンダムをよりわかりすくするためのテキストでしたかない。まあこれも最初にアニメ版を見た時に世界観を理解するまでに1クールはたっぷりかかってしまったので、その用語解説として楽しく読めた。
 ところが中巻の半分くらいからどうも妙な雰囲気になってきた。登場人物のキャラクター(性格)が少しづつ変わってきたのである。(この辺から本編アニメを見ていない人には意味不明だが...)泣き虫テテスが異様にカッコイイ姉さんぶりを発揮して、同一人物とは思えない。もちろんアダルトな展開もあり。主人公側であったはずの重要人物キエル・ハイムの30倍(当社比)はかっこいい。翻って、キエル非道すぎ。恋におぼれて自分を見失い、無様をさらし悪党の片棒をかつぐ。で、悪党は誰かといえばこの人。アニメ版でもかなりヘンだったグエン卿である。最悪の諸悪の根元となってしまい、あげく男色家カミングアウト(アニメでもそれらしかったが、そこは子供向けアニメだし自主規制したのか)ロラン(男)を愛人として自分によこせとキエルに要求する。アニメ版から妙に赤い彗星っぽいハリー中尉は、どうも精神に異常をきたしたらしく、最終兵器を作動させて月と地球に大損害、大虐殺の最終兵器を作動させるのだが、細かい心理描写は皆無。ただの排除すべき悪者になっちゃた。ディアナ。ソレルにいたってはほとんど「犬死」という有様。
 他にもアニメ版での最終話で究極の敵として描かれていたギム・ゲンガナムはあっさり倒され、アグリッパ・メンテナーは呆然としているだけ。とにかく個々のキャラクターが自分の意志を持って行動するのではなくて、巨大な渦のような厄災の中に翻弄され、ほとんど虫けらのようにボロボロ死んでいく。
 このターンエーガンダムのノベライズ書いたのが「亡国のイージス」などでおなじみの江戸川乱歩賞作家、福井晴敏である(すみません「亡国の...」未読です)富野由悠季の手をはなれ、企画段階の設定のみを知らされた福井、渾身の小説といっていいだろう(すみません「亡国の...」未読です)自分はアニメ版のギム・ギンガナムの登場から最終回までが大嫌いで、コイツが登場するまでのターンエーはものすごくお気に入りだった。「ひょっとしてギンガナムがでてこなかったらもっと面白い話になっていたのではないか?」と常々思っていたので、その解答がここに示されたようで溜飲が下がるおもいでした....といいたいところだが、とにかく想像を絶するジェノサイドぶりで、読了するのがつらかったです。もちろんラストもアニメとは全く違い...まるでこのまま時代が何世代か巡り巡ると、また第一話のような状況につながっていくのではないかと思えるような、かなり涙もののラストでした。
 どんな物語にも、メインとなるストーリーの他に「裏ストーリー」と呼びたくなるようなシュチエーションがある。この小説を読み気がついたことは、アニメ版も小説も裏ストーリーは同じであり、すなわち「ソシエ・ハイムの成長物語」である。アニメに比べようもないくらいソシエのハッピーエンドに癒される思いであった。
 ところでこれを読んで小学6年生のころ読んだ小説を強烈に思い出した。それは「宇宙戦艦ヤマト」まだ本放送が終了する前に完結編(上下2巻なのだが)が出てしまい「ええ〜ヤマトの最後ってこんなヒドイのか〜」とおどろいたものだった。なにせ島大介が森雪に横恋慕してラブレターを出して当然の如くソデにされる。その後自殺とも思える突撃。死亡と思ったら生還...実はガミラスにロボットに改造されて...その後ヤッパリ死亡。ガミラス星に到着する前に、なんと古代をはじめとするクルー達がパーティーデスラー総統と談笑「ジュースは果汁100%が一番」と訳の分からないことをのたまう。ガミラス星に見えたボロボロの星がイスカンダル星で綺麗な方がガミラス星(アニメとは逆)地球をすくう「コスモクリーナーD」などは当然存在せず、人類をすくうには放射能にも耐える体に人類を改造する「人体改造術」しかないとスターシャから断言される。あとうろ覚えだがスターシャはすでに死んでいて、彼女の意識を記憶させた巨大コンピューターがスターシャだった(かな?)
 執筆したのは当時日本SF界の大御所、豊田有恒。しかしアニメ版とあまりの違いに少年だった自分は呆然としてしまった。小説版はあまりに救いがなさ過ぎる。テレビ版がまったくのハッピーエンドだったので心の底から救われる思いであった。このトラウマが後のヤマトブームの火付け役になったであろう事は、ごく限られた人たちしか知らない「ヤマト黒歴史」である。なにせ現在絶版で入手不可能。自分も持っていない。小学生のころは友人から借りて読んだのであった。yahooオークションで「宇宙戦艦ヤマト豊田有恒」あたりのアラート入れておけばゲットできるかも知れないが、いくらになるかわからない...
 久しぶりに再開したブログだというのに、いきなり濃い話になり引きまくり倒しだとおもいますが、明日あたりから順次東京出張時のことなど書く予定です。