「トゥエルブ・YO」福井晴敏

 江戸川乱歩賞受賞作。今まで誤解していたけど「川の深さは」がこの受賞後の第二作ではなくて第一作で「トゥエルブ・YO」は第二作。なるほどつじつまは合っている。なんか世界観がみょうに似ているなあと、勘違いしていたが、同じ舞台設定ダッtあので当たり前だった。
 江戸川乱歩賞というと、かなり前の作品だが「脳男」を思い出す。ほかの作家は江戸川乱歩賞受賞後スグに第二作第三作を発表するのだが、この脳男の作者、首藤瓜於はその後ほとんど作品を発表していないんじゃないかと...いまamazonで調べてみたら脳男のほかにも本を出しているようだ...あまり話題にはなっていないようだが。このまま行くと、彼にとっては江戸川乱歩賞受賞が作家としての頂点になってしまう。それではあまりといえばあんまりだ...芥川賞にしてもそういう人はいっぱいいるし...日本ファンタジーノベルにいたっては死屍累々だから、とりあえずソレは今後の健闘を期待するとして。
 そんな心配など、まるでもろともしない職業作家、福井晴敏氏。彼にとって江戸川乱歩賞はまさに作家としてのスタート地点でしかなかった...という絶賛文章は「亡国のイージス」でも読んだ後に書こう(←おいおい)
 今回読んだのはその受賞作「トゥエルブ・YO」だが、相変わらず主人公はショボイ中年オヤジである。「川の深さは」の時は「派出所の両さん」を想像してしまったが、今回は「最強伝説黒沢」をついあたまに思い浮かべてしまった。主人公、平(たいら)は自衛官。元自衛官と呼んでも差し使いないほどの閑職になってしまった現在だが、以前は創設間もない特殊部隊のヘリパイロット候補だった。しかしヘリの墜落事故のPTSDのため操縦ができなきなくなり、上野駅前で「いいガタイいてるね。自衛隊入らない?」のおじさんになってしまった。あまりにリアルな転落した姿に、思わず自分の現状を重ねてしまい、もらい泣き。
 いつもの(とはいえまだ三冊しか読んでいないが)福井晴敏節ともいうべき、熱のこもったというよりは、熱にうなされているのではないかと思える最終兵器の覚醒までに至る戦闘描写はともかく、右翼左翼思想を超えて「日本人は何故そこまで過剰に自衛隊の存在を卑下したがるのか」という主張が伝わってくる。そのことがどうこう言うつもりはない。むしろ自分には落ちぶれ中年の更正物語としてとらえてしまっていた。くそ、自分だって今に見ていろ...と。
 仕事もうまくいかず、劣等感にさいなまれていた自分ではあるが、何とかなるんではないかと、少しだけ元気の出る小説だった。

Twelve Y.O.

Twelve Y.O.