「アドバード」椎名誠

こんな状況でも読書を続ける自分はまったく偉いものだと...椎名誠といえば旅エッセイなどが有名だが、SFも書いていたのだよ。しかもかなり昔の話。1988年あたりの本作。で、この話だが「地球の長い午後」オールディスにインスパイアされた、かなりSFに愛情あふれる作品となっている。話の途中から旅の仲間となる「アンドロイド」「改造人間」「脳髄だけ箱の中に入っている人間」などはまるでキャプテンフューチャーの「グラッグ」「オットー」「サイモン教授」じゃないか。思わずほくそえんでしまう。
ほぼ人間がいなくなり、世界には奇妙な人工生物?があふれ、その世界にすむ二人の兄弟が行方不明の父を探しに冒険のたびに出かける「父を訪ねて三千里」であるが、そこは椎名誠のこと、生半可な生物などは出てこないし、ストーリーに関係なく騒ぎまくる広告物体、広告生物。雑多な中にも構築された奇妙な世界観は興味深い。
自分は椎名誠といえば以前「中国の鳥人」を読んだだけだが、そこに展開された話は、オールディスというよりむしろバラード的世界だった。このアドバードでも本筋とちょっとはなれた枝葉のストーリーでバラードを思わせるようなお話が入っていて実に印象深い。自分的にはこれらの枝葉だけで短編集になってもぜんぜんOKなのだが...あとがきによると、どうやらこのアドバードという作品には作者の並々ならぬ思い入れがこめられているようで、おいそれと思いつきで感想など述べては撥が当たるのかもしれない。そういうわけで、このへんで...まあ、読んでみてください。いいっすよ。