「王妃の離婚」佐藤賢一

今まであまりにころころ人が殺されてしまうようなメタ小説的ミステリばかり読んでいた自分には、すばらしく新鮮みあふれる良作品。読み進めるうちに「あ、ひょっとしてこうなるんじゃないか」とか「きっとこの謎の答えはこれだな」などと、案外先の展開が読みやすいのではあるけれども、そのことが決してこの作品の作風をおとしめることはなく、むしろすがすがしいくらいである。小説のお手本。小説の教科書のような小説。さすがは直木賞受賞作品。
ところで同年の直木賞候補には、かの名作天童荒太氏の「永遠の仔」があるのだが....その次の直木賞の候補作には「亡国のイージス」我らが福井晴敏...まことしなやかにささやかれる「あまり長すぎる小説だと、多忙を極める選考委員先生たちが読み切ることができなくて、落選する」...との都市伝説が信憑性を増してくる。確かにスゴク短いぞ、この「王妃の離婚」は。速読が得意でなくても読みやすい文章出もあり、その気になれば4時間くらいで読み切れる。まあ、長編だからいい作品とは限らないのだけれど、ここはしっかり候補作は読み切ってから賞を挙げたいところである。そうでないと表彰式の後、落選作品がベストセラーになってエライ恥ずかしい思いをしてしまう。直木賞、そんなことは一度や二度ではないけれど...
そんな直木賞のことはさておき、本作品。これが案外おもしろいのですよ。まるできっちり二時間の上映時間に納めきった映画のように、過不足なく380ページに収まりきっているのですよ。まるで職人技。このソツのナサ、アクのナサが妙に引っかかっているのか?自分。もっと手放しで褒めちぎっても良いのみ、なぜかイマイチそういう気分になれないのは?
四時間くらい時間をもてあましてしまい、ナニをしようかと悩まれている方にはお奨めの一冊。イヤ、悪い意味じゃなくて、退屈しない四時間の豊穣たる時間をお約束する逸品です。良くも悪くも万人向け。
てか、よく考えたら、直木賞ってその年のスバラシイ大衆小説に与えられる名誉だから、自分のようなマニアックが絶賛するものではないよな。

王妃の離婚

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