「神は沈黙せず」山本弘

ご存じ「と学会」の重鎮、山本弘の渾身の一冊。2003年ベストSF国内編第三位の称号も輝かしく、オビには作家や評論家の讃辞の声も高らかに、今まで彼が積み重ねてきた「トンデモ」な知識を総動員して完成した究極の一冊だ。コレを期待するなという方が無理だ。ましてや長年トンデモ関連本をこよなく愛し、愛読してきて自分にとってこれほどの書物を黙って見過ごせる訳はない。久しぶりに図書館空の貸し出しではなく、ちゃんとお金を払って買ったハードカバー。何年ぶりだろう?
ただしブックオフで¥1,000-(←おいおい)
と、まあ、過剰な期待と共に購入してしまった本書だが、非常に困ったことに「おもしろくない」のだよ。イヤ、トンデモ本の愛好者になら、「と学会」総帥自らが書き上げた究極のトンデモ本として持ち上げたいところなのだが...そういったちょっと斜に構えた楽しみ方もアリだが...一般の人たちがSF小説だと思って読んでも、たぶんつまらないとおもうのだよ。
こんなことを言っていいものかどうか...自分も一様「と学会」信者なものだから...でもね、小説として悲しいくらい主人公に感情移入できないのよ、これが。
主人公は女性フリーライターで、その兄が天才的頭脳で神の実在を発見する。そこに至るまでの迫力の描写はそのままトンデモ本の解説書になるくらいの迫力を持つ分量なのだ。どれくらいの知識の蓄積があるかというと、巻末の参考文献の数だけ見てもすごいものがあるのだ。しかしエンターテイメントとしてはどうか?
本当に自分は「と学会」が大好きで「と学会」関連書籍が図書館にはいると、スグにすべて読破していたのだ。これら「と学会」関連書籍のエンターテイメント性に比べると、残念ながら本書はかなり尻切れトンボの感じが否めないのであった。
なぜだろう?
主人公の一人称で進む物語に無理があったのであろうか?何せ、主人公の目から見ただけの人物像だけでは、スゴク魅力的なキャラであろう元彼や兄、兄嫁などの心理描写がどうしてもおざなりになってしまうし、世界各地で起こる大変な事件も、主人公の目から見ただけの描写じゃ「世界が滅亡しました」とテレビのアナウンサーが原稿を読んでいるだけのような味気なさを感じてしまうのよ。そこら辺を事細かな筆致でもって表現するのが小説家ってものだと思うのだけれど。
上下段組の500ページもある大長編を読み終えた後なのに、これほど味気なさだけが残るのは非常に悲しい。まあ、彼が提唱する世界観や超常現象の新解釈などにはモノスゴク興味をひかれたので、よけいに悲しい。

神は沈黙せず

神は沈黙せず