「神無き月十番目の夜」飯嶋和一

最近はヒドイ眼精疲労に悩まされていて、なかなか読書が進まない。週二冊は最低でも読みたいのだけれど、寄る年波にはかなわない。メガネが無くても自由に本が読めたあのころが懐かしい...
などと感傷にふけっていてもしょうがないので、ダメならダメなりにゆっくり読むことにする。コレもかなり時間がかかってしまったなあ...
1988年に「汝ふたたび故郷へ帰れず」でデビュー以来「雷電本紀」「神無き月十番目の夜」「始祖鳥記」「黄金旅風」の五冊しか作品がない超寡作作家。作家への印税っていくらだかよくわからない所もあるが、たとえば10%として、とてもじゃないが一冊につき10万部も売れているとは思えない。本好きには好評な作家だし図書館などではたいてい蔵書していると思うから2万部は堅いとして、五冊だから10万部。一冊1800円平均として合計が¥180,000,000-の売り上げなら一千八百万円??デビュー後17年だから一年あたり¥1,058,824-
あくまでものすごく大まかな概算だが、ちゃんと生活が成り立っているのかどうか非常に心配になってしまった。それなら自分だけでも図書館から借りなくて、買えばいいのに(←おいおい)
ソレはともかく...本書。今まで読んだ飯嶋作品は不幸な中にもの光を見つけて未来に希望がもてるという内容が多かったのだが、この作品に関してはそういうことは一切なし。全くなにも救われず、村人全員惨殺で物語が終了する。飯嶋作品にしては珍しい結末だ。
時は関ヶ原を終わり、徳川家康の時代の初め。改めて租税の改訂をしようと倹地役人を迎えることになった村。ソコは増収をはかった策略もちろんあり。小さめの物差しを使い計るので当然面積は今までより広くなり、租税は多くとられるコトになる。加えて隠し田なども一切認めず、発覚したら厳罰、死罪となる。季節はちょうどお盆。仕事熱心な検地役人はお盆休日返上で仕事にかかる。村人は迷惑千万。しかもようやく青くなり始めた稲穂を踏み荒らしての測量に怒り爆発寸前。
またその村の森のおくには穏田と呼ばれる土着信仰のシンボルの田があるのだが、村人たちにとっては神聖の田も検地役人にとってはタダの隠し田でしかない。穏田を巡っての村人たちの確執もあり話はどんどん悲劇的な状況へと突き進んでいき。事態は収拾不能にまで陥ったところで、この話の主人公は...ネタバレになるのでこの辺でおしまい。
皆がよかれと思い行っていることが、歯車が最初から狂いまくっていて、まったく咬み合うことがない。妙に職務に忠実が故に、かえって事態を悪化させる役人。穏田を隠そうとしても、やはりそこは多勢の中に裏切りありで発覚しそうになり、そこへ案内するフリをして役人を全員抹殺してしまう若者たち。役人たちと戦争だといきり立つ若者たちだが、彼らは本当の戦争を知らない。本当の戦争とは敵味方に分かれて殺し合いをするだけのものではなく、味方すら殺さねばならない事態を回避できないものだということを....理不尽な死が村を覆い尽くし、物語は終わる。
今まで読んだ飯嶋作品の中で救いの無さは一番の作品。う〜ん...あまり好きにはなれない作品。

神無き月十番目の夜

神無き月十番目の夜