「生ける屍の死」山口雅也

昔まだ日本がバブルだった頃、それなりに小金持ちだった自分は、今ではバス、トラックしか作っていない会社IのPというちょっとスカした車に乗っていた。ある時車の後ろからポチャポチャと水の音がするようになった。きっとタンク内でガソリンがゆらゆらしている音なのだと気にもとめていなかった。そのころも今と同じように読書好きで、車の中にはいつも読みかけの小説が必ず入っていた。ある日、半分ほど読みかけて車におきっぱなしに忘れていた小説の続きを読もうと車の中を見ると、なぜか水を吸ってぶよぶよに。とても本の状態を保っていなかった。おかしい。他にも車中に置き去りにした帽子もぶよぶよになり、搭載していたCDチャンジャーは完全に破壊されていた。一体どうしたわけだとよく車内を調べてみると、あの「ちゃぷちゃぷ」とした音の正体と、それに伴う各種障害の原因がわかった....
車の中、雨漏りしていました。
リヤウインドウが豪快に雨漏りしていて、その水が後部のスペアタイアの収納スペースに池のごとく溜まりまくり、ソレが車内の温室効果でサウナ状態になり、本はぶよぶよ、電器製品は破壊というコトになっていたのだ。
前置きが長くなってしまったが、そのとき読みかけにもかかわらず水びたしで読書不能となり、途中で捨ててしまった本がこの「生ける屍の死」だ(本当に長い前置きだ)
それから3年後くらいに古本屋の百円コーナーで見つけて買い直したはいいのだけれど、またそこから7年くらい読まずにほったらかしだった。この辺に「本は買わずに図書館から借りる」という自分の読書スタイルがあるのだけれど...つまり返却期日がないと本を読まないのだよ。
10年ぶりくらいでようやく読み終えた本書なのだが、実に本格な造りでして、かなり意外な真犯人だった。だがこの本の醍醐味はそんな犯人捜しにあるのではなくて、あくまでシュールな内容を楽しむ所にある。
つまり舞台が「死者が蘇り生前と同じように振る舞う世界」での出来事なのである。殺しても、死んでも生き返る世界。ま、SF的モチーフなのだけど、要するに「あなたを殺した犯人は誰だね?」って被害者に聞けば答えてくれる。推理小説が成り立たないじゃないか。まあ、そこまですると困っちゃうので、殺された人たちはよみがえった後で「いや〜後ろから殴られたんで、犯人は見てないんすよ〜」と必ずのたまう。コレはしょうがないよね。
後、ビックリするところは、物語が始まって早々に、この物語の主人公、パンク探偵グリンは...死んじゃいます。おいおい、主人公が早々に死んじゃって、この先はどうするつもりだと...ご安心を。ちゃんとゾンビになって事件を解決します。ミステリ史上最初で(たぶん最後の)ゾンビ探偵の誕生です。
山口雅也って実はこれが初めて読んだんだけど、いかにも「アメリカの小説を翻訳しましたよ」的なテイストに満ちあふれていて、軽めのジョーク満載でおもしろかったですよ。10年もほったらかしにしてないで、もっと早く読めばよかった。これからもなるたけ本は買わずに借りることにします。読書趣味を続ける極意、ココにあり。
...久しぶりに書評らしくない書評だな。

生ける屍の死 (創元推理文庫)

生ける屍の死 (創元推理文庫)