「アラビアの夜の種族」古川日出男

エジプト、カイロに迫りくるナポレオン率いるフランス軍。その圧倒的な力の前に陥落寸前の危機を打破するためにアイユーブが彼の主人でもある知事に進言した秘策とは...
「災厄(わざわい)の書」
過去より伝われる謎の本で、忌まわしき災厄が読んだ者に降りかかるという驚異の本。その本をフランス語に翻訳してナポレオンに贈り、彼と彼の軍隊をを破滅へ導こうという信じがたい作戦であった。そして翻訳作業をする翻訳者が厄災に巻き込まれぬよう、書物を十数の部分に分解して、それぞれの部分だけを翻訳させることにより回避しようという、壮大な計画。
このアイユーブの計画を、イマイチ信じられ無いながらもGOを出した知事ではあったが...実はそのような書物などは存在していない。その後にアイユーブが訪れたところは「語り部」と呼ばれる、物語を語り継ぐ一族の女性ズームルッドの元であった。そして彼女の語る物語を本に書き留め、それを「災厄の書」として使おうというのだ。
そしてズームルッドの語る驚異の物語。忌まわしき妖術師アーダム。美しき拾い子ファラーとサフィアーン。この三人の物語。別々に語られていた物語はやがてやがて一つの物語となり、剣と魔法と策略とが交錯する壮大な物語となる。一体どのような週末に向かうのか?
そしてその「災厄の書」はナポレオン軍を駆逐することができるのであろうか?

とにかく長い物語であるから、なかなかあらすじをはしょって紹介できないなあ。
物語の中の登場人物が語る話という二重の入れ籠状態の本書ではあるが、扉の裏と後書きには作者本人の弁で「これはオリジナルではなくて、サウジアラビアへ旅行中に偶然手に入れた英語版のThe Arabian Nightbreeds(作者不明)の日本語訳である」と記されている。
でもこれ、本当?これすらも作者の創作とすると、実に三重の入れ籠に閉じこめられた本である。ちょっと疑いすぎかもいれないが、どうも皆川博子の「死の泉」読了以降、こういったコトを考えてしまうようになってしまった。
ま、そんな仔細なことはホントどうでもいいコトなんだけど。
ちょっと回りくどいというか、なかなか取っつきにくい文章で、読書がリズムに乗るまでに時間がかかってしまったが、いったん調子が着いてきたらもう止まらないおもしろさ。三人の主人公たちが邂逅してからラストまで、一気に読める痛快無比な物語であった。
さて古川日出男で最初に読んだ本は「サウンドトラック」あちらの方はなんかサッパリ訳がわからない小説(破綻気味?)だったが、ひょっとしたらこの「アラビア夜の種族」の剣と魔法のスペクタクルを、剣のかわりを重火器に、魔法のかわりをダンスとして、近未来日本をアラビア世界に見立てて再構成してみたかったのではないかと?
で、うまく行き損ねてしまったと?
「アラビア夜の種族」は主人公三人の邂逅以降の盛り上がりがとてつもなかったので「サウンドトラック」にしても三人の主人公が出会って以降の冒険譚を書いて欲しかった。
絶賛された本書と、どこにもなにも紹介すらされていない「サウンドトラック」やはりかなり当たりはずれの激しい作家なのだろうか?まだ沢山本があるので、それらを片っ端から読んでいき判断してみよう。
それに、もうこの二冊を凌駕するような分厚い著作は無かったと思ったので、これからはもっと読が進むことだろう(←おいおい)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)

アラビアの夜の種族 (文芸シリーズ)