「虚無への供物」中井英夫

古来より日本探偵小説界には「三大奇書」という物が存在していた。
ドグラマグラ夢野久作 ISBN:4390108840
黒死館殺人事件小栗虫太郎 ISBN:4390108867
そしてこの「虚無への供物」中井英夫である
自分は今まで「ドグラマグラ」と「黒死館殺人事件」を読んでいたので、今回のコレにて、めでたく三大奇書コンプリートと相成ったのである。ああめでたい。
さすが奇書といわれるだけあって、訳がわからない。もっとも黒死館の後ではその奇書っぷりも霞むが、それでも奇書は奇書。どのへんが奇書かというと...誰か自分にわかりやすいようにあらすじを教えてください...というくらいの奇書だ。奇書の条件は「いかに読みにくいか」コレにつきる。「黒死館」の読みにくさには負けるが「虚無」の方は二段組み350ページ、しかも文字が小さく改行少なく原稿用紙換算約1200枚。これだけ使ってナニをやっているかというと、この密室トリックなら短編のネタで終わるなってところを、シロウト探偵達が寄り集まって「ああどもない、こうでもない」と好き勝手に推理合戦をしたあげく、推理がどんどん混乱していくというものなのだ。どうやら本来事件を解決すべき探偵約役からして、率先して事件を混乱させているようだし(多少理由あり)すでに密室トリックなどどうでもいいのだ。
このシロウト探偵どもの推理合戦というのが、また訳がわからない。アイヌの呪い。コンダラ童子。広島爆心地で原爆の直撃を受けたが生存した腹違いの兄弟。男色SMパートナーによる情死。などなど、むちゃくちゃな犯人像が次から次へと現れ、密室トリックに至っては「ブリキ製の自動人形をリモート操作で動かして、ストーブのガス栓をひねり中毒死」って、アンタソレのどこが推理やねんとつっこみどころ満載。
たぶん主人公のワトソン役であろうアリョーシャ(本名は別だがロシアふうにこう呼ばれている}に、いちいち「あんたバカぁ?」とばかりにツッコミ満載のツンデレ探偵、奈々村久生。この二人まるで某国民的アニメの「シンジ」と「アスカ」じゃないか。案外これがルーツかもしれない。どっちもトンデモ推理で捜査攪乱しまくり倒しまくるだけだが....
物語冒頭、いきなりゲイバーで、ゲイボーイが「サロメ」(有名なオペラ、王に踊りを褒められた王女が褒美に予言者の首をもらい、ソレをいだきながら歓喜の舞を踊る)を演じるところからはじまる。雰囲気一杯にはじまる物語は、そのわけのわからない雰囲気のままダラダラ延々、なんか訳のわからない物語が続くのであった。
とてもシロオト様達には勧められない小説であります。
つまりなんだ奇書ってヤツは、訳のわからない小説ってコトか?
今更ながら「暗黒館の殺人」を見事書ききった綾辻行人の偉大さがわかった。
さて、ここまで忠告しても、やはり三大奇書をコンプリートしたいという人を止める資格は自分にはない。読んだからといって、誰からも尊敬されることはない。しかも読み終えても「一体今の話は何だったんだ」と首をかしげるのがオチであり。首をかしげるだけならいいが、とにかく読書中には猛烈は睡魔を覚悟して欲しい。実際自分の場合は、睡魔に負けながら読み終えてみると、丸二週間は本書にかかりきりになってしまった。しかも読了後にカタルシス皆無。その間ブログ更新ままならず。
悪いことは言いません、やはり奇書は奇書なので読まない方がいいかもしれません。
自分の場合は例によって図書館から「現代推理小説大系 別館1」ってので読みました。どうでもいいがこの本は作者名しか背表紙には書いて無くて、内容が「虚無への供物」なのかどうかわからなくて苦労した。司書さんに調べてもらったのだが、書庫の肥やしとなっていた。
ま、三大奇書のうちとりあえず「ドグラマグラ」だけはかろうじてエンターテイメントしていますから読みやすいです。途中「チャカポコ、チャカポコ」と30ページくらい脳髄の機能解説してくれますが、タルイので、とりあえずソコは無視しください。ストーリーは破綻しませんから。
とにかく疲れた。しばらくは普通の本を読もうと心に強く誓う。
それでも読みたいという方↓現在でもかろうじて絶版にならずいるみたいです。

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(下) (講談社文庫)