「薔薇密室」皆川博子

今回の出張友の本。
久しぶりに読む皆川博子だが、どのくらい久しぶりかというと、奇しくも去年も同じ出張先へ行ったときに読んだ本が皆川博子の「総統の子ら」だったから実に一年ぶりである。本書も「ドイツ物」と分類して良いような本であった。タイトルからしてミステリかなとは思ったが、幻想ものである。
第一次大戦時に重症を負ったイケメン兵士を、怪しい医師のすまう館へ担ぎ込み、そこで奇っ怪な蘇生実験を行う。死にかかった肉体に薔薇を植え込み、薔薇の養分を人体に引きこっみ治癒させようという物だ。そこには彼らが来る以前から、この薔薇の実験の献体になっていた男がいた。男娼であり、末期肺結核に冒されたヨリンゲル(あれ?ヨリルゲンだったかな)がいた。
さらに時は進行して第二次大戦前夜。ドイツ第三帝国ポーランドに侵攻して、そこに住まう医者一家はその渦中に投げ込まれる。その中の少女とドイツの広報映写技師との出会い。年をとらない奇形の少年。やがて複雑な物語は、この薔薇の館へ向かって収縮していく。
と、かなりおおざっぱに紹介してみたが、ご覧の通りサッパリワケのわからない分になってしまった。コレはひとえに自分の文章力が至らないだけであって、本編は至って名作の薫り高い、それでいてめまいのする、ミスディレクションへと巧妙に誘い込む、まさに文章の迷宮である。
一瞬でも長くこの夢幻世界に浸っていたい。
一人称で書かれている文章が、章ごとに主人公が違い、うっかりすると誰が誰だか迷ってしまう。その中に超常現象ともいえる不可能実験が紛れ込み、どこに真実があるのか訳がわからなくなる。魅力的だがどこか壊れている登場人物達。ヒムラーの趣味で集められた奇形人間達の疑似家族(あちゃ、また奇形人間すか)とまあ、謎と幻想に満ちあふれた本書なのだ。ただ自分的にはラストで結構つじつま合わせの説明が入ってしまって、某作家の「ふしぎなものなどなにもないのだよ」的になってしまったのが「う〜ん」とうなりどころだ。不思議は不思議で、不思議のままでほっておいてもいいんじゃないかな....
でもまあ、大傑作。

薔薇密室

薔薇密室