「夏への扉」ロバート・A・ハインライン

SFのオールタイムベストをやると、現在でも必ず入り込んでくる古典名作。いまさらだけど、実はまだ読んでいなかった。SFの大御所と言うことで高校時代はかなり読んだつもりだったのだが、今考えてみると「月は無慈悲な夜の女王」「宇宙の孤児」「宇宙の戦士」くらいしか読んでいなかった。「月は...」はかなりいい作品だったけど、後の二つはほとんど内容を覚えていない。特に宇宙の戦士は当時ガンダムの「モビルスーツ」の原案がコレに出てきた「パワードスーツ」だってことだったので、SFファンには必読書だったのだが...つまんなかった。
そんなあまり良い印象がなかったハインラインだったが、これは良い。素晴らしくいい。やはり未だに評価され続けているのがよくわかった。
天才的な発明家の主人公は、婚約者と友人の奸計に落ちて、その発明品と会社の経営権を奪われ、コールドスリープ装置にたたきこまれ、30年という長き眠りに落とされてしまった。30年後に目覚めた彼は、その社会の変わりように驚くが、ソコは天才発明家。30年後の世界でも発明家としてがんばるのだが...自分を陥れて巨万の富を手に入れているはずの元婚約者と友人が、何故か没落している。いったい彼の眠っている30年間になにがあったのか?
ここからSFでは必携人物のマッドサイエンティストが現れ、不完全ながらタイムマシンを完成させていて、ソレを使い一気に過去のあの事件のあった日までさかのぼり....以降はネタバレの為、自粛。
いや〜いいんだこれが。普通こういったストーリー展開だと「復讐譚」になってしまうのだけれども、実にスマートに、そして完璧に事を成し遂げてしまうのだ。まったく気持ちがいい。これほど頭の切れる主人公が、物語前半にはまるでなすすべもなくあっさり騙されてしまっているのだから、同一人物とは思えない。人間30年も眠っていると、頭もよくなるのかしらねえ...
たぶんこれがはインライン初の「タイムパラドックス物」になるのだとおもうのだけれども、これだけ短い小説にこれだけのアイディアと、幸せ一杯のハッピーエンドを詰め込めるなんて、実にステキではないか。
以上三冊が今回の二週間にわたる読書だったわけだが、三冊とも当たりだった。何せ本業がかなり不振で苦労続きだったので、一服の清涼剤となった。たまにはパソコンとネットのない暮らしもいいものだ。

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))

夏への扉 (ハヤカワ文庫 SF (345))