「深海の使者」吉村昭

久しぶりに読んだ吉村昭はかなり初期の作品。戦争秘話。コレも実は図書館の無料持ちだしコーナーにおいてあったもの。残念ながら最近は、通販カタログとハーレクインロマンスしかおいていない。どうやらめぼしいモノは年に1回開催されるボランティア市(一冊50円均一)で販売されているようだ。自分も行きたいのだが、ここ数年は出張と重なっていけられない。
ソレはともかく本書だが、この勇ましいタイトルとは裏腹に、作戦自体は死屍累々であった。
学校の授業で習ったとおり、第二次世界大戦時に日本とドイツ、イタリアは「三国軍事同盟」ってヤツを結んでいて、まあ、お互い助け合いましょうということだったのだが、日本とドイツ、地理的にはほとんど地球の裏側。どんなに提携しようといっても無理がある。その無理を承知で援助物資、技術交流をするために密かに作戦されたのが、潜水艦による交流であった。普通考えれば飛行機でズバッと飛んでしまえば簡単そうなのだが、やはりコレも地理的困難があった。空輸するにはソ連上空をかすめるコースを採ることが最適なのだが、当時締結していた「日ソ不可侵条約」により、ソ連の中国本土への参戦を食い止めたい日本としては、不必要にソ連を刺激したくなかったワケだ。上空侵犯などして、ソレを口実にソ連満州国に進行してくることになっては非常に困る。そこで航空機に替わって潜水艦を使い、日本からドイツへ渡り、技術援助を受けようという作戦を考えたのだ...しかし失敗続き。全くの無駄死に続きだった。
そういえば最近の「芋たこなんきん」も戦争特集しているが、やはりはじめから無謀な戦争だったわけで、今日のお母さんの一言「勝っているうちに和平交渉するなら有利にできるけど、今更なに!」であろう。
潜水艦内部のかなり悲惨な状況も克明に記されている。水が超貴重品。フロなど問題外。飲み水すら事欠く極限状況で、艦長からして全身アカまみれ。敵艦が近くにいようモノなら、十数時間でも連続で潜行して、艦内が酸素不足で二酸化炭素増加。頭がボケーっとしてくる。モチロン禁煙。ようやく海面に出て新鮮な空気を吸える素晴らしさよ。
なにはともあれ、福井晴敏さんの「終戦のローレライ」はひょっとしたらこの本の影響で書き始めたのではないか?そんなことを思わせる一冊であった。

深海の使者 (1973年)

深海の使者 (1973年)