「伯林蝋人形館」皆川博子

新年最初の皆川博子です〜というか、いい加減オビに「『死の泉』から九年」とか入れるのはやめましょうって...死の泉は名作だけども。
皆川ドイツシリーズとでもいいますか、この一編。第一次大戦で敗れ多大な賠償金を科せられ荒廃しきったドイツが、やがてヒトラーを擁して再興していこうかという混乱の過渡期の物語。皆川物語が入りくんでいるのはもう慣れっこ。退廃的な雰囲気抜群なのは、いまさらいうまでもない。雰囲気たっぷりの一冊なのだが、なにぶん一話ごとに語り部が変わるのだが作者は一人というややこしい構成に、頭の悪い自分はかなり混乱してしまった。彼女にしては薄い本なのに、途中まで読んでは、前ページを読み返してみたりと、なかなか先に話が進まない。とにかく全部読み終えた後で「ああ、なるほどこういう話だったのか」とわかれば、ヨシ。
前回読んだ「薔薇密室」のような「絶望的状況の中での希望」とかはあまり無い。てか、自分は薔薇の方がすきだな。あ、いやこれがそんなに悪いというわけではないのだけれど「不可思議な謎」が薔薇の方が多かったので...特に不可思議な謎のない本書は(構成がややこしいので謎に見えるけど)その退廃描写で勝負だ。若くして志願したがドイツ敗戦し、その後ジゴロへと落ちる青年アルトゥール。蝋人形師マティアス。そして狂言回しというべき歌手ツェツィリエ。そんな怪しい人物達と比較的まともそうな人物たちのつづれ織り物語は、妙に静かに淡々と進んでいくのであった。
もちょっと簡単な構成で1000ページくらいの、読んでみたいです(←無い物ねだりのワガママ読者)

伯林蝋人形館

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