「ディアスポラ」グレッグ・イーガン

今年も読者三昧と行こう。そんな新年の決意もぶっ飛ばす21世紀最大の問題作であり、イーガンの最高傑作との誉れ高い本書が、新年第一冊目の読了作品となった。
新年一冊目からコレか!!
というようなとんでもない内容の本。今までにイーガンといえば「宇宙消失」と「万物理論」しか読んでいないが、近年まれにみる正当はハードSF作家のイメージがあり、非常に興味をひく作家だ。その中でも評判の本書を読んでいないのが時代に乗り遅れているような気がしてしょうがなかったのだ。図書館にもなく、リクエストするのもまだるかったので、久しぶりに正規書店で定価で買ってしまった。
結論から言おう。サッパリわからなかった。
小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」という小説をご存じだろうか?日本三大奇書の一つに数えられ、その中でも突出した奇書ぶりで、日本のミステリファンを恐怖のどん底にたたき落とした傑作。読了した後も、一体ナニが何だか訳がわからない一冊だ。本書は、まさにそれに匹敵する奇書だ。
遠い未来の人類は、自らの人格をプログラムに変換して、データとしての存在になってしまっていた。その中で、偶然か、それともプログラムの必然なのか(この辺が冒頭に説明されているのだが、コンピュータ専門用語満載で、すでに心は挫折モード)孤児と呼ばれる本書の主人公の人格がプログラムの中で形成される。やがて、人格をデータ化することを拒み、肉体を維持して生きてきた人類最後の生き残りが、二重パルサーの衝突からガンマ線照射で絶滅して、主人公のグループは(データの存在のまま)生命の痕跡を求めながら多次元宇宙を何兆年もさまよう。
あらすじはコレでいいとは思うのだけど...
とにかく理系専門用語が満載で、そこに未来の造語が混じり合い、あげくにイーガンが創造した架空理論が展開されるのだから、コレをタダの木工職人に理解しろと言う方が無理だ。
そんなわけで、正直な読後感はまさに「黒死館殺人事件」と一緒なのだ。とりあえず、最後まで読了した自分を褒めてくれ。多分読了した人より、30ページくらいで投げ出した人の方が多かったに違いない。よくこの本を翻訳することができたモノだ。翻訳者に拍手を送りたい。
評論家の書評などは絶賛の嵐で、コレを読まなければSFファンとはいえないとでも言いたげな勢いだ。いや、確かに何かコレはとんでもない作品であるという印象はものすごくするのだが、いかんせんぜんぜん理解できないのだよ...近いうちにもう一度読み返してみなければならないかもしれない。
小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」で有名な話があって、出征兵士が一冊だけ本の帯同をゆるされ、聖書にするか黒死館殺人事件にするか迷ったあげく黒死館殺人事件をもっていった。まさに本書もそういった一冊であり、無人島に持って行く一冊としては最適だ。ただ、本はコレ一冊で十分だと思うが、内容を解析するためにインターネットにアクセスできる環境がないと無理だな。本書の解説で、イーガン自身のサイトでは、本書の複雑な事象を詳しく解説しているページがあるそうだ。なんとアフタサービスの行き届いた作家であろうか。もっとも英語なので、自分には理解不能だろう。
日本語で解説をやっているファンもいるようだ。
http://d.hatena.ne.jp/ita/00010205
それでも自分には理解不能のタリラリランだ。
わからないことを「わからない〜」と楽しめるようになったら、書痴の道も100倍楽しめるであろうコトは間違いないな。
ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

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