「猫楠」水木しげる

かつてマンガ黎明期に活躍していた漫画家が(誰とは言わんが)その後かつての栄光に後ろ足でドロを振りかけるごとき作品や発言を繰り返しているこのごろ、かつての勢いと全く変わらぬ、いや、むしろとんでもない異彩を放っている方、ソレが水木しげる大先生だ。確か齢80はすでに超えられていると思うのだが、多分先生本人が妖怪だから死なないのだ(おばけは死なない〜♪)
本書はそんな大御所が描いた「南方熊楠」一代記である。普通に描いてもとても、まともではない奇人熊楠を水木御大が描いたのだから、これがまともであろうはずがない。スゴイおもしろいのだ。ラスト近くでは愛する息子が精神を患ってしまい、悲惨この上もないコトになってしまうのだが、そこに至るまでの波瀾万丈...というより熊楠が傲慢、我儘、猪突猛進の物語なのだ。熊楠といえば小学生向けの偉人伝が出てもおかしくないくらい知名度のある人物ではある。偉人変人である。
偉大な人物であろうが、一緒には暮らしたくない。
偉業を成し遂げる人物というのは得てして「身近の人々の評価」と「遠くの人々の評価」のギャップが異常にある。まさに熊楠がそうである。名家だった実家の家督を弟に譲り(だまし取られたと本人は言っているが)ほとんど脅し取るように渡航費用を弟からせしめ、ヨーロッパに渡り、そこで才能花開くのである。「遠くの人々に高い評価」なのだから、まさにヨーロッパなどは日本から見れば地球の反対側。これほど遠くの場所もあるまい。
まあ、周りの人に大迷惑を振りまいていたのだが、本人はそこそこ幸せな人生だったのではないかと推測するのである。まさに日本漫画界某大物M先生のようだ(←おいおい)

猫楠 南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)

猫楠 南方熊楠の生涯 (角川文庫ソフィア)