「謎とき『カラマーゾフの兄弟』」江川卓

 いうまでもないが、野球解説の彼ではない。「えがわたく」とお呼びするらしい。
本人も翻訳している「カラマーゾフの兄弟」の謎を解こうという大胆な解説本である。
え、そんな解説本を出すほど難しい内容だったっけ?というのが正直な感想だが、や
はり読み勧めているうちに「なるほどそうであったか!」と膝を打つより「やりすぎ
じゃないか?」と思える謎解きが続く。結構それが面白かったりするので、本という
のは読んでみるまでわからないものだ。
 最後あとがきで、江川氏が幼い頃、学校の先生に「カラマーゾフの兄弟の中で誰が
一番好き?」と言う質問に「アリョーシャ」と答えたところ「まだまだだね」といわ
れたそうな。最初に読んだときが小学六年生の時というのだから、それは先生、読了
したことの方が驚異的ではないのかねえ〜じゃ自分は誰が好きだというと、ドミート
リィかな?...グリゴーリィを殺してしまったと思いこみ、そこから豪遊、放蕩三昧。
カラマーゾフ版「最後の晩餐」なのだろう。
 ドミートリィを「黒キリスト」スメルジャコフを「白キリスト」のなぞり「現キリ
スト」と言う立場でアリョーシャが存在するという「ドストエフスキー版聖書世界」
を構築した物語なのだそうだ。ああ、そこまで自分は考えが至らなかったよ。
 百年以上昔の事なのに、今更ながらドストエフスキーカラマーゾフの兄弟の続編
を書かずになくなってしまったことを、江川氏は心から残念がっているように思える。
 やはり次は「罪と罰」よなまきゃなあ。でも市立図書館には超難解な「岩波文庫版」
しかないんだよなあ...

謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)

謎とき『カラマーゾフの兄弟』 (新潮選書)