「まだ見ぬ冬の悲しみも」山本弘

どうも最近は山本弘づいているようだ。先日の「アイの物語」に続いて読んだのがコレ。短編集で、印象的には似ているような気がするけど、一様「アイ」の方は連作ということでそれぞれの短編が関連し合っている。今回読んだのは完全な短編小説集。
SFというと、数年前から「終わってしまった小説ジャンル」的な感じがしたのだが、グレッグ・イーガン以降何だか粋を吹き返してきているような気がする(ファンタジーもふくめて)そんな中でも純SFとつい言いたくなるのが山本弘だ。純...というより古典的というのかなあ...
何せこの短編集の最初の一編のタイトルが「奥歯のスイッチを入れろ」イヤもうこれだけで詳しい説明はいらないだろう。ズバリ、リアル版009だ。
「真面目な顔をしてヨタを飛ばすのがSFなのだ」と作者後書きで書いてあるとおり、コレは壮絶なヨタ話集なのである。
それがいちいちおもしろいからしゃくに障る(褒め言葉)
たとえば同じく一編の「メデューサの呪文」コレはモトネタ知っている人は少ないだろうな〜かの名作映画「モンティパイソン」(確か「アンドナウ」だったと思うけど)の一説なんだ。
ネタばれになるかもしれないけど、モンティパイソンの話では...
第二次世界大戦当時、とてつもなく売れないイギリスのコント作家が奇跡的に大爆笑の作品をかくことができた。ところが余りにおもしろすぎたため、完成した作品を読んだ瞬間にそのコント作家は爆笑死してしまった。ソレを知った諜報機関が対ドイツ兵器に利用としようとして、ドイツ語に翻訳する。翻訳作業中に意味を知った翻訳者が爆笑死しないように、一人一行以上翻訳してはいけない作業手順になっていたのだが、うっかり二行翻訳してしまった者は、やはり爆笑死してしまった。
さて翻訳が完成して、兵器として使用するのだが、全くドイツ語のわからないイギリス兵士達に発音させつつ最前線を駆け抜けるのだ。意味のわからないイギリス人は無害だが、意味のわかるドイツ兵はそれでバタバタ爆笑死していくのであった。
という話の山本弘版。モンティパイソンではギャグであったが、ソコは山本弘調にもっともらしくSFふうに味付けしたものである。
「と学会会長」としては有名な山本氏ではあるが、たまに出版されるオリジナル小説も深読みするモノスゴクおもしろいよ...という逸品。
そんなこと関係なくても、とても読みやすい文体なので、SF初心者にはお勧めです。

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

まだ見ぬ冬の悲しみも (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)