「ソラリスの陽のもとに」スタニスラフ・レム

今回の東京出張でのお伴の本はこれ。先日読んだ「エデン」と共に異生命体との接触をテーマにした作品で過去に二回映画化された名作。自分はタルコフスキー版の映画を見たが、途中で力尽きて寝てしまった。ソレを見たとは言わないが...そんな魔力がタルコフスキー監督には存在する(←あまり褒めていないな)
エデンがあまりにもつまらなかったので、全く期待しないで読んだのだが、これが意外とおもしろかった。惑星ソラリスの海はそれ自体が一個の生命体であり、ソラリスの宇宙ステーションに滞在する人間に対して、複製人間を送りつけるという干渉(攻撃なのかどうか判断がつかない)をしてくる。どのようにおもしろかったか以下に記す。
スタンド使い...ソラリス惑星
スタンド名...お客(ザ・ゲスト)
スタンド属性...近距離パワー型
スタンド能力...対象者の頭脳をスキャン。そしてトラウマ的人物の記憶を再構成した人間を送り込む。対象者にとってはトラウマ的人物が突然目の前に現れるので、パニック的心理状態に陥る(その結果、自殺などで死に至る)さてソラリス惑星が送り込む人間ではあるが、その性格などは、対象となる者の記憶を正確に再現するため、本物の人物と区別が付かない。というより本物そのものである。不審に思った主人公が口八丁で血液検査に持ち込んだところ、その生体の原子構造までは人類と全く同じだが、分子以降、素粒子レベルまで解析すると、ソコには「無」があるのみで(分子が存在しない)無から有を構築したとしか思えない存在なのである。無から有の構築...まさにスタンド使い(@荒木飛呂彦)ってなかんじである。
とにかく興味あふれる話であって、ナニがスゴイって、どういう意図で惑星ソラリスがそういた複製人間を送り込んでくるのか解らないが、その複製人間からして完璧な複製なので、その心理状況までもが完璧に複製されている。主人公ケルビンに送り込まれた複製人間は、自殺した彼女の妻。まるでその自殺当時をなぞるように行動しはじめる彼女に、ケルビンはそれでも愛を感じ始める。複製とはいえ実際に手で触れ感じることができる存在であり、生前と全く同じ行動パターンの彼女を前にして、それでも正気を保とうとして、ついにはその彼女を自殺した妻と同じように愛し始めるケルビン。その後ケルビンは「ソラリスを離れ地球で暮らそう」と勧めるのだが、しょせんはソラリス惑星が作り出した幻想でしかない存在の彼女。しかし幻想でしかない彼女にも一人の人間としたアイディンティティーがあり、知性もあるので、状況を冷静に判断する能力があるのだ。つまり「ソラリス惑星の影響圏を離れると、自分も存在することができない」というコトを複製の身にして理解している。
さてどうする...ってところだが、この時点であらかネタバレの状況を通り過ぎているので、あらすじはこの辺でヤメにする。
最初は惑星ソラリスからの過激極まる心理攻撃に、いかに人類の英知で立ち向かうのかという話だと思ったのだが、読み進めるとどうも違う。じゃラブストーリーかというかと...どうもソレも違う。このように人類と他の知的生命体とのコンタクトは一筋縄ではいかないということ。そんなことを見事に表現しきってしまうレムの凄みを感じる一冊...というか、ひょっとしてレムの最高傑作ではないかと?
近年ハリウッドでリメイクされたソラリスも見なきゃ...いや、その前にタルコフスキー版のソラリスをきっちり寝ないで見なければならないと、心底思った一冊である。