「家に帰らない男たち」松井計

すでに皆さんご存じの「ホームレス作家」でベストセラーになり、めでたくホームレス脱却をした松井計の最新作(多分)である。ホームレス作家の次作「ホームレス失格
」でも書かれているように、本当にこの作家は「ホームレス作家」で燃え尽きてしまったように、新作が出版されなくなってしまった。本作品も以前どこかの週刊誌でその序文代わりの紹介文を読んだ覚えがあるのだが、新書版で百数十ページ(たいていの人は一時間もあれば読了可能な分量)しかないのだ。いやなにも量だけが問題ではなくて、全くルポ作家になっていたのが驚いた。
完全にゼロから創作された小説はもう書けないのかもしれない。
内容的には社会のひずみを家に帰らない男たちに重ね合わせる様に書かれたルポルタージュなのだが、やはりそこには「家に帰れない当事者が作者本人ではない」という立ち位置が、作品全体に漂う「ユルさ感」とでも言うモノになっている。とはいえもう一度「ホームレス作家」のような緊張感あふれる傑作を書くためにホームレスになれとは口が裂けても言えない。
ゴメンナサイ。過去の傑作が過剰な危機的状況から書かれているので、ソレを抜きにして、新作を語らなければ...本書がつまらないのではなくて「ホームレス作家」が素晴らしすぎるのだ。
ところで本書の不満だが。家に帰らない男とはいえ....いや、だが、しかし...本妻に内緒で親子ほどの愛人を作りその家に平日は入り浸り、休日に妻のいる自宅に帰る中年男性を称して「家に帰らない男」とし、取材するのは、品作の趣旨とはかけ離れているように思えるのだが。
一番心に衝撃を感じたのは「ビッグになる」をお題目に、田舎から上京してきた若者。親からもらった20万円、多分親にしてみれば「オラ東京さ行きてえ」の時点で「観光旅行」的なことを考えていたのであろう。20万円使い切れば帰ってくるとおもっていたら、どっこい息子は帰ってこない。日雇い人材派遣で職場を転々としながら、ネットカフェで睡眠する、流行のネットカフェ難民になっている。それだけならともかく、作者がどんなに「将来成りたいことはないの」と聴いても「ビッグになる」の一点張り。歌手になってビッグになるとか、得意分野で起業してビッグなるとか....そう言った具体的なビジョンがなく、ひたすら「ビッグになる」「ビッグになるまでは故郷に帰れない」コレを繰り返す。
タダひたすら痛いだけだ。
日本は大丈夫なのだろうか?

家に帰らない男たち (扶桑社新書 23)

家に帰らない男たち (扶桑社新書 23)