「変身」カフカ

自分の読書において、とにかくカフカは途中挫折が多い。短編でもだ。でも変身は読んだ。不条理だがおもしろかった。カフカ読んではじめておもしろいと思った。
角川文庫版なので、オマケに「ある戦いの描写」ってのが収録されている。さっぱりわからん...いかにもカフカ的だ。もういい、わからんものはわからんでいい。それでも結構エンターテイメントだ(←前も言っていないか?)
子供の頃読んだ手塚治虫のマンガで「ザムザ復活」というのがあった。もちろん「変身」へのオマージュ。近未来、反体制派の若者がとらえられ、見せしめのためSF的装置により巨大な芋虫に変身させられる。そしてゴミ捨て場へ捨てられるのだが、そこで彼は驚異的な生命力を発揮して生き延びる。やがて芋虫は巨大な蛹となり、やがて中から巨大な蛾が誕生する。そして自分をこんな姿にした体制側の役人へ復讐するべく羽ばたくのであった。
いかにも手塚先生的な熱血残酷物語なのだが、本家の変身の方は、むしろ淡々としている。朝起きたらグレゴール・ザムザは巨大な毒虫(ダンゴ虫みたいなもの)になっていたのだが、そのことに対しては取り立ててあわてていない。ソレより仕事の約束があり、約束の時間に遅刻してしまったことを焦っている。自分が一家の家計を一人で担う働き手だっただけに、この不始末で会社での彼の立場が不利益になってしまうのをおそれているのだ。
しかし家の中に巨大な毒虫がいるとなっては、まともな社会生活を営めるわけがない。そんなことからおこるドタバタを、実に淡々と描ききる、乾いた感覚。クールな筆致。こんなところがおもしろかったのだなあ。

変身 (角川文庫)

変身 (角川文庫)