「赤と黒」スタンダール

たまに名作づいて読むことはあるが、コレは最近読んだ名作モノの中ではもっとも自分に合わない作品である。うわ断言しちゃったよ。
小さな街の木こりの子として生まれ育ったジュリヤンは、聖書を丸ごと暗記できるほどの驚異的な能力と、女性がほおっておかない「イケメン」の二大武器でもって、フランス上流階級への出世階段を上り詰めていくのであった。
当時ナポレオンを敬愛することは国家に対する重大な反逆行為なのだが、彼はそれを人しれず敬愛していた。
彼の出世には必ず彼の雇い主と密接な関係のある女性が必ず登場する。ま、毒牙にかかるってなわけなんだろうな...書かれた時代がふるいから、その辺は微妙にぼかしてあるけど。
さてそんな主人公ジュリヤンだが、その旨には押さえきれない激情と、過剰とも言える自尊心が渦巻いていて、しかし不思議なことにこれらが旨い具合に作用して、ご婦人たちがメロメロになるのだ。こりゃまたご都合主義なことだ。
多分この本が書かれた時代背景をもっとよく勉強したなら、価値ある一冊になるかもしれない。残念ながらそこまでの思い入れを自分は持つことができなかった。
フランス史上、ナポレオンの失脚から王政復古の時代背景を持つ本書だが、それだったら以前読んだ「モンテ・クリスト伯」の方が遙かにおもしろかった。まあ自分のようにひがみっぽい性格の男なら、イケメン兄ちゃん出世物語より復讐奇譚謎の海賊物語の方がピッタリ来るのは無理もない。
散々出世して奥様方のヒーローだったジュリヤンだったが、結局自分の肥大化した激情と自尊心に押しつぶされるように自滅した。急展開で崩れ落ちてゆく物語に、ナポレオンの生涯を反映させたのであろうか?ま、無情である。

赤と黒 (上) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-1)

赤と黒 (上) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-1)

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)

赤と黒(下) (光文社古典新訳文庫)