「ドラゴンフライ―ミール宇宙ステーション・悪夢の真実〈上〉〈下〉」ブライアン・バロウ

以前にコレと間違えて「絶対帰還。」を読んだが、今度は間違いなく本書を読んだ。二段組み800ページあまりある分量にヘキヘキしながらも、出張中に何とか読了。ま、一ヶ月以上も図書館に延滞してしまったけれど。
ミールの有人衛星ミッションはロシアが主体におこなわれていたから、さぞや酷いモノだったのだろうと思っていたが、酷いどころの騒ぎではない。「絶対帰還。」でもコロンビアの爆発事故で宇宙飛行士がISS国際宇宙ステーション)から地球へ帰還できなくなってしまったが、そんなものミールにくらべたらまるで...
ピクニックである。
とにかく言語道断なくらいとんでもない有人衛星ミールとは一体どんなモノだったのか本書を読んでもらえればよくわかる...でも長いからなあ...長いだけではなくて宇宙技術者の専門用語が飛び交い、ロシア人とアメリカ人の人名が多数飛び交うのだから、内容について行くのがやっとなのだよ。
初めてのスペースシャトルの悲劇「チャレンジャー爆破事故」で、今後の宇宙ミッションの方向性を完全に見失ってしまって、国家の威信が揺らぐアメリカと、ソビエト連邦崩壊のあおりで資金的に行き詰まり、各国に多額の報酬で宇宙旅行までを請け負うようになってしまったロシア(この時期にTBSのアナウンサー、秋山さんだったかが日本人初の宇宙飛行を毛利さんに先駆けておこなった。いくら払ったTBS。今ではほとんどなかったことのように扱われている、ああ無情)の利害が一致してしまい、アメリカが資金援助する代わりにアメリカ人をミールにのせて宇宙実験をすることになった。ところがそんな地の果てロシアへ進んで行きたがる宇宙飛行士などそんなにいるわけがなく、結局チョット問題ありげな人材が選ばれミールへと向かうことになる。特にページを割かれているのが「リネンジャー」というアメリカ人。ありとあらゆる博士号を取得し、かつてないほど優秀な人材に見えるが...致命的なくらい協調性に欠ける。彼のマイペースにほかのロシア人クルーたちも切れかかりながら、それでも順調そうにミッションは続いたのだ。
ここで最初の大事故「火災発生」
地上の火災と違う、宇宙空間に浮かぶ人工衛星内での火災だ。決死の消火活動を行いながらも、脱出用カプセル(ソビエトが誇るソユーズ)の準備を始める。
何とか持ちこたえるのだが、これ以降次々とトラブルがミールを襲うのだ。その間リネンジャーは地上にミールの危険性を再三警告するのだが、何せむちゃくちゃ性格悪い彼の言うことだから、誰もあまり真剣に考えない。あげくロシアの不祥事隠蔽体質により、ますます誰もリネンジャーには耳を傾けない。
「誰か死人が出ないと、話を聞いてくれないのか!」
ミッションが終了して地上に帰還したリネンジャーは声高らかに、切れまくる!!
しかしロシア宇宙飛行士も悲惨なのだ。アメリカでは考えられないような安い給料で命がけのミッションしているのだ。給料は安いがいろいろオプションがあって、一つミッションやるごとにボーナスが出る。もちろん成功報酬だが、そのため地上からのかなり無理な指令でも「ハイできます」二つ返事で答えるのだ。ボーナス欲しいから。4ヶ月前にシミュレーターでちょっとしか練習していない、手動での無人貨物ロケットのドッキング実験を、ほぼぶっつけ本番で行うロシア人船長。案の定大失敗。貨物ロケットはミールに衝突。実験棟の一つに穴が開き減圧。つまり命を支える空気が宇宙空間に放出しだした。ミール最大の事故はこうして起こった。宇宙空間に取り残された飛行士たちの運命は如何に!!
全く命がいくつあっても足りない有人衛星ミールである。そんなミールも今は破棄され、大気圏へ落下しながら燃え尽きてしまった。そのまま残しておくとISS国際宇宙ステーション)と衝突するおそれがあるからだ。きっとミールには旧ソビエト連邦の怨念が染みついているのであろう。放置するとどんな事になるか縁起がわるいったらありゃしない...ま、そう言うわけではないけど、とっくに耐用年数を償却してまっているのだから、とっとと処分しちまったほうが身のためだな。
よくこんなリーク情報満載な本が出版できたよなあ...作者がCIAかKGBに抹殺されなきゃいいけどと思わざるを得ない一冊であった。
あ、もうKGBはないか(そうか?)

ドラゴンフライ―ミール宇宙ステーション・悪夢の真実〈上〉

ドラゴンフライ―ミール宇宙ステーション・悪夢の真実〈上〉

ドラゴンフライ―ミール宇宙ステーション・悪夢の真実〈下〉

ドラゴンフライ―ミール宇宙ステーション・悪夢の真実〈下〉