「夢みる宝石」シオドア・スタージョン

巻末の解説を読むといきなり「難解なスタージョン」ときたものだ。自分のような30年前からハヤカワSF文庫に親しんだファン達にとっては「スタージョン=難解」という刷り込みがなされてしまったようだ。なかなか読んでやろうという気持ちになれないのが非常に残念だが、コレもまた未熟な時代に刷り込まれた事象。判断力はカケラもないくせに記憶力だけは過剰にある若かりし時代にままある現象である。
二年くらい前に、ようやく初翻訳された短編集が出るなど、我が国では非常に知名度の低い(そのくせ評価は高い。ならとっとと翻訳しろよ)作家だが、短編集を読んだ時点では難解どころかモノスゴクおもしろいじゃないかと思った。とはいえ他にスタージョンの著作って何か翻訳されていたっけ?自分が知っているところでは本書の他は「人間以上」まあこれは有名だけど「原子力潜水艦シービュー号」...コレは誰も知らないだろうな。かくいう自分も中学三年生の頃、東京創元社版を購入して読んだのだが、サッパリ訳がわからず最初の30ページで挫折。
今考えると、うまく翻訳できなかったいいわけで「難解」って言っていたのではないか翻訳者?
人類が知らない間に、どこの星から来たのかもわからない「生きている宝石」達が地球に生息していた。全くなんの変哲もない土塊に見える。その表面のドロを落とすとそれなりに輝いてはいるが、とても貴重な物質には見えない。しかしその宝石達は生きている生命体なのだ。その宝石は時に他の宝石と結婚をする。その時に夢を見る。その夢が現実の物質となり出現する。主に現存する生命体のコピーとなり出現するのだが、それは完全な形として登場するばかりではなく、時として不完全として出現する。むしろ不完全の方が多い。人間にしたらフリーク。そんなフリーク達を集めカーニバルで見せ物を生業とする親方がいる。彼はもともと医師を目指していた天才だったのだが、いろいろあり医師会を追放され、そのような仕打ちをした世界に復讐すべく、この謎の宝石生命体の力を悪用しようとするのだが...
一人の少年がいる。孤児であった彼は、社会的成功をもくろむ男に引き取られていたが、虐待を受け逃亡。そこでこの見せ物小屋で働くフリーク達の一団に助けられる。少年には物心ついたときから一緒いる人形がいる。この人形に傷害がかかると、少年にも苦痛が襲いかかる、不可思議な存在であった。人形には光り輝く二つの目玉が植え付けてあり、実はそれは....そしてどうやら少年には、この宝石生命体の力を制御できる能力があるようなのだ。その秘密は、宝石生命体の力を悪用しようとする邪悪な親方には、なんとしても知られるわけにはいかない。さてこれからどうなる?
あらすじをチョット書いてみたが、やっぱ読んでみないとサッパリわからないな。とにかく「難解なスタージョン」と、どいつもこいつも言うほど難解ではないことは自分が保証しよう。コレより村上春樹の方が100倍難解である。さんざんラブクラフトと格闘してきた自分としては、難解どころかとてつもないエンターテイメント以外のなにものにも思えないのだが。あまりの面白さに風邪を忘れ、午前中の布団の中で一気読み。ようやく時代はスタージョンに追いついたのだ!!(←時代じゃなくて自分だな)

夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF)

夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF)