「地球最後の日」コナン・ドイル

こう毎日読書感想文ばかりだと、日常生活ネタが皆無なのではないかと疑われそうだが、まさにそのとおり。毎日自宅から出ず仕事一途だとブログネタがなにもないのだよね。
そんなわけで、今日もコナン・ドイルといきましょう。昨日「マラコット深海が荒唐無稽でとんでもない」とか書いたが、実はそんなことはないのだ。「地球最後の日」に比べたら「マラコット...」などは文芸大作といっていいほどまともなSF作品である。なにせマラコット深海のあとがきに「地球最後の日」のネタバレが記されたいるのだ。当時はまだ本書は翻訳されていなくて、それを読んだマラコットの翻訳者が「地球最後の日」のあまりのひどさに「未翻訳ではあるがこんな本がある」と紹介しているのだ。しかもネタバレ全開で。たぶんこんな酷い本が翻訳されるわけがないと思っての暴挙だと思うのだが...
翻訳されちゃいました。
マラコットは東京創元社だが地球最後は角川文庫。出版社が違うからできたのか。世界のホームズの生みの親だから、この際未翻訳があったら翻訳権を取って商売しようぜ!!ってところであろうか?真相はわからない。
さて「地球最後の日」だが原題を「Poison belt」といって、元祖フォトンベルト物と言っていいシロモノだ。地球の公転軌道上に猛毒エーテル地帯があり、ソコを通過する際に全人類が猛毒エーテルにより全滅してしまうという話だ。エーテルっていっても最近じゃ銀河鉄道999でもなければ登場しない物質ではあるが...要は光の振動を伝える媒介で、真空であるはずの宇宙空間もエーテルで満たされているので、光が伝わることができるという存在である。もちろん現代科学ではその存在が完全に否定されたものではあるが、コナン・ドイルの時代にはあると思われていたのだ。宇宙に浮かぶ猛毒エーテル帯っていう設定は結構おもしろいが、オチが非常に歯切れ悪い。
猛毒エーテル帯に突入したために地球が猛毒に冒され、人々はばたばた死に始めた。コレを予言していたチャレンジャー教授をはじめとする一行は、事前に密閉された部屋と各自が持ち込んだ酸素ボンベの供給でなんとか命を長らえていたが、酸素ボンベも尽き果て、ついにその最後を迎えるときがきた。ところがさっきまで死んでいたと思われていた屋外の人々がどんどん息を吹き返しているではないか。なんと猛毒エーテル帯を地球が通り過ぎたために、猛毒がなくなり死んだと思われていた人々が生き返ったのであった!!!
てか、なんじゃそりゃ?
これは普通の読者だったら怒り狂うよな。荒唐無稽もここまできたら何も言うことはない。これがあのホームズの生みの親の作品?いやもう英国では国民的作家と大人気なのが信じられなくなってしまうコナン・ドイルである。
イヤひょっとしたら、こういったドイルのとんでもなさも含めて「新作読んだか?ドイルしょうがねえなあ〜あははは」ってなぐあいに英国国民に愛されていたのかもしれない。何せ三度の飯よりジョーク好きな国民だからねえ...
メチャクチャページ数の少ない作品で、異常に挿し絵が多い。巻頭は二ページに一枚。半ばを過ぎても五ページに一枚はある。しかもやっつけ仕事の殴り書き程度のとんでもなくへたくそな絵だ。あきらかに一冊の本にするには少なすぎるテキスト量を水増しするためだけに描いたであろう挿し絵である。しかもそれでもたりず、他に二本の短編も収録されている。この二本ともやはりとんでもない作品なのだが、よくこんな本を出版したもんだ角川書店。あきれるを通り越して感動するよ。
どうせこんな本が再版されるわけがないから、ネタバレで短編二編も紹介しよう。
一つめ「分解機」あるマッドサイエンティストが物質を分子レベルに分解して、それをまた再構築できる機械を発明した。コレを使えば世界中のどこへでも戦車などの兵器を突然出現させることができる。旨く使えば世界征服も可能だ。ところがせっかくの大発明を英国政府はインチキだろうって事で無視。こういうとんでもないことは、われらがチャレンジャー教授(先出の主人公)が得意分野。さっそく調べに行くと、例の機械はすでにロシアに売却済み。本当に物質分解機なのかと実験すると、本当に分解機であった。「私はこの技術にお金を払ってくれる人なら誰でもよいのです。英国は損をしましたね。もうロシアに売っちゃいましたから、世界はロシアが支配することになるでしょう」とのたまうマッドサイエンティストをチャレンジャー教授は言葉巧みに分解機に座らせて、スイッチオン。分解機が作動して、哀れマッドサイエンティストは分解されてしまいました...てか、正義の味方のチャレンジャー教授、それでいいのか?
もう一つ「地球の叫び」実は地球は一体の生命体であった。それはエーテルを食用(またエーテルか)として生きている。その証明を仕様としている迷惑千万教授チャレンジャー。地殻に深いトンネルをあけ、地球の本体にたどり着く。それは灰色したゼリー状な物体であった。ソコに「刺激を与える」と...地球上の火山という火山が全部大爆発...おしまい。
え、それでおしまいかといわれても、おしまいなのでおしまい。ちなみに本書で登場したわれらが英雄チャレンジャー教授というのは、かのSFの歴史において輝ける金字塔的作品「失われた世界」の主人公でもあるのだ。コレを観ても、やはり自分が提唱する「コナン・ドイル二人説」というのは信憑性がいやがうえにも増すものであった。
さあ、真実は如何に?