今日のバローズ「火星の大元帥カーター」

 先日読み終えた「火星の大元帥カーター」を図書館に返しに行く。これから図書館も年末進行で休みが多くなるから、ここで一気に火星シリーズを借り溜めしようとした。もちろん閉架扱いで書庫に入っているので、司書さんに持ってきてもらうようにお願いした。
「ええと、このシリーズで(といって、裏表紙のシリーズ案内を見せながら)まだ読んでいないのを全部借りたいのですが」「はい、ちょっと探してきますね」...そのまま10分「残念ですけど秘密兵器がありませんね、透明人間と合成人間はあるんですけれど...飛ばして読みますか?」「その前まででいいです」「じゃ今回は幻兵団とチェス人間と交換頭脳でよろしいですか」「お願いします」「それから終わりの二冊、古代帝国と巨人ジョーグもないんですよ。蔵書として購入してもらえるようリクエストしますか」「ご親切にどうも。でもこれ廃刊なんですよね」「そりゃ残念。東京創元社も出せばいいのに」こうして実際に本のタイトルを口に出してみると、実に妙な感じだ。大人の会話じゃないね。
 結局「NHKにようこそ」のときと同じく他の図書館を当たってくれるとのこと。毎度申し訳ありません。しかしよく考えたら、火星シリーズはともかく「NHKにようこそ」はバリバリの新刊だし、ここにPDF版が販売されているから、買った方が経費かからないような気がする。
 「火星の幻兵団」
 例によって例の如く、お姫様が誘拐されてそれをヒーローが助けに行くお話。今回は前回までの「デジャーソリスとジョンカーター」ではなくて「スビアとカーソリス」という新しい組み合わせ。それじゃぜんぜん新しさがないじゃないかと思われそうだが、そこはバローズ。とんでもない発想がまた登場した。それが「幻兵団」である。タイトルそのまんまじゃないか。たった二人しかいないのに、彼らの念力で幻を見せることによって、あたかも兵士の大群がいるように思いこませ、しかも幻とはいえ、彼らの放った矢が当たると、当たった方は「矢が当たったと」と思いこみ....死んでしまうのだ。
 そんな馬鹿な!
 その程度で馬鹿なと言っていたら、先へは進めない。あまりに幻で何度も現れた兵は、そのうちの一人がとうとう本当に実体化してしまい、普通の人間として存在してしまった。それだけではなく彼もまた念力で幻を使える物だから話がややこしい。読んでいると一体どこまでが、誰までが幻なのか混乱してしまう。不条理。ひょっとして主人公たちまで幻なのか?幻を使う怪人物は幻が生んだのか?火星も実は幻だったのか?そこまではいわんが....
 最後はいささかご都合主義的ではあるが、めでたしとなるのですが。しかしこんな発想を不条理SF作家フィリップ・K・ディックの生まれる遙か以前、1930年に思いつくなんて。やっぱりバローズは素敵なイカレ野郎です。
 SFで「幻」と来ると、真っ先に思い出すのがスタートレック宇宙大作戦といった方が馴染めるなあ〜)での一エピソード「タロス星の幻怪人」もともとは放送が始まる前に作ったパイロットフィルムの話を膨らませて前後編にしたものだけれども、なんと言っても主役がカーク船長ではない。エンタープライズ号の前任者クリストファー=パイク船長なのだ。しかも一度見たら忘れられない、思わずトラウマってしまいそうな姿で登場。彼は事故で植物人間となり、奇妙な箱状の生命維持装置から頭だけ出して、顔の前に青いランプと赤いランプがあり、質問にイエスなら青、ノーなら赤と...たったこれだけしかコミュニケーションがとれない姿となってしまっていたのであった。そこで我らがスポック副長の登場。得意の精神感応でパイク船長の希望を知り。軍規違反を承知で禁制宇宙空間へとエンタープライズ号を飛ばせたのであった。当然つかまり軍法会議にかけられるスポック。その会議中に、エンタープライズが向かおうとしていた禁制宇宙空間の方向から怪電波が送られてきた。そこには全ての謎を解くカギがあった。
 おおざっぱなストーリーだが、とにかく不条理。何が真実で何が幻なのか見ていて混乱する。とてもよくできたミステリー仕立てで、しかもラストにはあっと驚くどんでん返しがある。宇宙大作戦中の最高傑作だとひそかに思っている。
 イカン、宇宙大作戦の話の方が長くなってしまった。
 さて次はいよいよシリーズ最大の変なタイトル「火星のチェス人間」....チェス人間ってなんだ?