「奇術探偵曾我佳城全集」泡坂妻夫

 ミステリ短編集なのだが、どうしてもこういったジャンルはストーリーやキャラクターを描く前に「謎解きパズル」で終わってしまうので、あまり好きではないジャンルなのだが。それでも読んだのはそれが「奇術」だからだ。先に読んだ「マジシャン」松岡圭祐以来どうも手品モノに興味津々なのだ。
 初出が80年頃だから二十年にわたって連載されていた話が一冊にまとまったわけだ。気の長い話だ。始めの頃出てきた少年助手が終わり頃には一人前の凄腕マジシャンに成長していた(20年だもんな)話自体は割と淡々と進行して、淡々と殺人事件が起きて、淡々と解決する。トリックにしても実にオーソドックスで良心的?その分やはり「謎解きパズル」的な話が多くなってしまったのはどうなんでしょうか?(いやだったら読まなければいいのに...)いや、だからこの手のは苦手なんだって。
 そんな中でも「浮気な鍵」というエピソードはキラリとした名作だ。短いながらも実に登場人物が良く描かれていて、しかもトリックが小道具を駆使してはいるのだが、そのタネが人間の心理の盲点を実に良くついていて、自分的には一番だった。
 ところで全集ラストに意外な結末。20年の集大成がコレでよかったのかな?ちょっと不満。