ようやく読了

 「講談師、見てきたようにウソをつき」
 ようやく小栗虫太郎「人外魔境」読了。とにかく取っつきにくい文章に慣れるまでが大変だった。それになれたら、以降は割とスムースに読めた。途中シリーズ全体を締めるような主人公「折竹孫七」が登場してから話が盛り上がりはじめる。その当時の日本はまさに軍国主義真っ盛りの昭和十五年。例に漏れず主人公折竹も(というか、小栗だな)祖国興国のためなら命も辞さずという玉砕ぶり。何人もの同行者が魔境への道なかばで死んでも「3人死んだ」と、たった一言ですまされてしまう。実に命の安い時代背景を表している。
 とはいえ一話一話の設定が実に良くできている。それに加えて小栗独特の、何語だか良く解らないが、奇妙なルビが、魔界の雰囲気を実によく表現している。「悪魔の尿溜(ムラムブウエジ)」「食肉岩地帯(テラ・サルコフアギイ)」「太平洋漏水孔(ダブックウ)」...書き出したらキリがない。素晴らしい、実に素晴らしい。これら短編のプロットを膨らませるだけで、現代なら悠に長編一冊はできるはずだ。もちろん折竹のキャラクターも立ちまくりである。こんな突拍子もない魔境を次々と創作できる頭脳を持つ小栗虫太郎という作家は、このまま再販もされず日本人から忘れ去られてしまうことが実に惜しい。内容に多少(実はかなり差別的表現)問題ありなので、再販は難しいだろうな〜でも多分ちょっと大きめの図書館なら書庫にしまってあるはずだから、是非読んでください。
 今回300ページ二段組の小栗作品を読み終えた事により、自信がついた。これならきっと以前に挫折してしまった日本一の奇書「黒死館殺人事件」も読了できるのではないか?