トンデモ本発見

「論理力の鍛え方」北岡俊明
 最初のうちは割とニコニコ笑いながら読んでいたのだが、途中からだんだん腹が立ってきて、読むのがばかばかしくなった。論理...ロジックである。物事を筋道立てて考える方法であろう。パズルや知恵の輪が大好きな自分にとっては鍛えておいて損はない力である。早速タイトルに引かれて借りて来たが...ホント図書館で借りてきてよかったと、心の底から思った。書店で買ったとしたら、悔やんでも悔やみきれない内容である。
 借りてきてとりあえずパラパラとページをめくってみたのだが、いきなり目に飛び込んできた見出しが「天下国家のための論理力」...一気に脱力した。そう、この本は論理力をいかにして鍛えるかを解説した本などではカケラもなく、まさに「天下国家」とうたうだけあって右翼思想万歳本なのである。この本で決して論理力などは鍛えられない。いろいろツッコミどころ満載なのだが、いちいちここにあげるとキリがない。一部だけ。

本書の読者は、戦後50年間、日本を支配してきた受験勉強的なハウツウ思考から脱して、天下国家を論ずる気宇壮大な論理力を持って欲しい(中略)重箱の隅をつつくような論理力、数学的な論理力では、小官僚は養成できても世界をリードする人間は生まれない
実にもっとも至極ではあるが、この後延々と文例(主に著名人のもの)を出して、そこかしこに傍線を引き、事細かに論破していくのだが...それこそ彼の否定する「重箱の隅をつつくような論理力」ではないか?(あ、自分も重箱つついている)
 その後もいろいろ続くのだが...「日本の教科書の歴史認識は間違っている」という論争には「内政干渉だ」の一言である。これのどこが論理力なのだ。論理などはすでに存在せず、感情だけではないか?ま、勝手にしてくれ。
 筆者は「ディベート大学」なるモノを主催している。そこではディベートの論題は陳腐なものではいけないと書いてある。その後「この膨大な論題をみよ」としてディベート大学でいままでに取り上げられてきた「陳腐でない」論題を一挙に羅列している。その一例「巨人は来年リーグ優勝するか」これが毎年のように取り上げられている。どうやら彼らにとってこの問題は靖国安保南京大虐殺東京裁判等々などと同列に論ぜられるべき陳腐ではない高尚な論題のようだ。
 と、まあ、重箱の隅をつつきまくり倒したので、作者からおしかりを受けそうだが、叱られるからといって自説を引っ込める卑怯極まりない行為はきっと作者も嫌うところと思い、はっきり書いてみた。もう一度言おう。この本は作者の意図するところとは違った読み方をして、それで楽しめるという「トンデモ本」の定義にピッタリマッチする本である。買わなくても良いから、図書館で見かけたら借りましょう。
 てか、こんな思想的に凝り固まった本をよく購入したよな〜図書館。などと疑問に思いつつ表紙をめくるとそこには「○○様寄贈」とあった。なるほど、そういえばこの手の寄贈本は他にも沢山書架にあったなあ...例えば高橋信次の本とか...どんな内容の本であろうと、本は本。その内容の判断は司書がするのではなくて、その本を実際手に取り読む個人個人の判断に任されるべきだ。その辺のことが徹底されているようで、そんな姿勢は好感が持てる。