「美濃牛」殊能将之

前作「ハサミ男」のぎりぎり反則気味展開とはうってかわって、きもちのいいほどの正統派ぶり。横溝正史の後継者とよんでしまいたくなるほどの正攻法のミステリ。自分がいままであまりにもメタミステリ的作品を読みすぎてきたせいか、かえって新鮮に思える。それもこの作者の並はずれた力量のためであろう。
謎が謎を呼ぶ展開という訳ではないが、淡々と、しかし確実に事件は起こり続ける。いにしえの大正〜昭和初期の探偵小説のような展開。横溝正史の「獄門島」と江戸川乱歩の「孤島の鬼」へのオマージュ(ネタバレ的だが「猟奇の果」への変則的オマージュ)もあり作家としての良心がここに詰まっているとしか言いようもない。これが作者の絶妙なる語り口でブレンドされて、芳醇なミステリへと昇華されている。これを読むという至福を読者に与えてくれる。サンキュとお礼を言いたい。
ところで、あとがきにあった「殊能将之、仮面作家」とは?知っている人は知っていることなのか?全然知らなかったけど。実は清涼院流水だったとかというオチはなしにしてほしい...ほんと、どうなんだろう

美濃牛 (講談社ノベルス)

美濃牛 (講談社ノベルス)